《若手記者・スタンフォード留学記 7》先進国でトップ。アメリカの高い出生率の秘密

 


 一方、“優しい社会”の代表がスカンジナビア諸国です。

 たとえば、ノルウェーでは、54週間の育児休暇(休暇中も80%の給与を受け取れる)、6週間の父親の休暇に加え、出産時には4000ユーロ(約60万円)の一時金をもらえます。その上、託児所も政府が提供してくれます。こうした手厚い援助があるため、北欧諸国での出生率は1.8。北欧諸国は物価の高さでも突出していますが、女性全体の75~80%が働いて家計に貢献しているため、不自由なく生きていけるわけです。

 

イタリアと日本の共通点

逆に言うと、イタリアや日本のように、アメリカほどフレキシブルでもなく、北欧ほど手厚くない社会というのは、女性が子供を産むのに、最悪の環境と言えるかもしれません。

ともに、出生率が1.3程度に留まる日本とイタリアに共通するのは、「女性は家庭に留まるべきという伝統が強い」「男が育児を手伝わない」という点に加え、「パラサイトシングルが多い」という点です。

確かに、当地にいるイタリア人を見ていても、就職が遅い人が多い印象を受けます。クラスメートのイタリア人も、イタリアで大学院をすでに修了していて、スタンフォードを卒業した後は、帰国して外交官試験の準備をすると言っていますが、いったいいつになったら独り立ちすることやら…(笑)。若くして、良い企業に就職するのは相当難関らしく、安い給料で働くなら、家にい続けた方がいい、となってしまうようです。

そのため、就職が遅れると、結婚も遅れ、出産も遅れるので、子供を2人持つのは無理、となってしまうわけです。日本でも、初婚年齢がどんどん後退しているのは同じです。翻って、アメリカは、大学生になると家から出て行く、というカルチャーがいまだ根付いています(一方で、親の介護をするカルチャーもないので、親としてはさびしいようですが…)。

言えることは、こうした社会全体のモデルを変えることなく、ただ補助金を積みましても、少子化対策としての効果は薄い、ということでしょう。

「男は外で働き、女は子供の面倒をみる」というモデルを変革することなく、戦前の「生めよ、増やせよ」に回帰するのは、単なるアナクロニズムでしょう。実際、記事中に引用されている、22カ国を対象として1997年に行われた研究によると、子供関連の補助金を25%増加しても、出生率は0.07上昇するに過ぎないそうです。

補助金が機能しているといわれるフランス(出生率は1.9)も、そもそも男性が育児に積極的で、女性の労働参加率も高い(25歳から50歳の女性のうち80%以上のが働いている)という土台があってこそ、政策がうまく機能しているわけです。

女性の進出が、日本の繁栄につながる

私は「男女同権」を唱えるフェミニストはあまり好きではないのですが、女性の力をもっと生かしていくことには大賛成です。というより、日本ほど、女性の力をうまく使っていない社会も珍しいと感じます。

女性がもっと働きやすくなれば、労働力不足は補えるし、少子化も改善に向かうかもしれません。そして、女性が働けば、より家庭の収入が上がり、国内の消費も盛り上がるでしょう。1粒で3度おいしい政策です。安易に、「1000万人移民導入」を唱える前に、もっと今あるリソースを最大限活用することを、考えたほうがいい。

そもそも、ものづくりとか、研究とか、ひとつのことに没頭する仕事は、男性の方が向いているかもしれませんが、マーケティングとか、サービスとか、セールスとか、柔軟性が求められる職業は、女性の方が向いていると思います。しかも、これから製造業は減り、サービス業は増えるわけですから、女性的な感性が求められるフィールドは広がります。

日本の男には、思考の革命が不可欠です。「子育てや家事を手伝う」「仕事を効率的にこなして、家庭の時間をつくる」「妻のキャリアを真剣に考える」などなど、若い世代の男性から、新しい風を吹き込んでいかなければなりません。

先ず隗より始めよ。将来、子供ができたときは、寝る間を惜しんで、子育てを手伝いたいと思います(笑)。

佐々木 紀彦(ささき・のりひこ)
 1979年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、東洋経済新報社で自動車、IT業界などを担当。2007年9月より休職し、現在、スタンフォード大学大学院修士課程で国際政治経済の勉強に日夜奮闘中。

 

《若手記者・スタンフォード留学記》バックナンバー
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