奈良「龍神の里」の小さな宿が「割と人気」の理由。子ども時代「すごく嫌だった」実家の民宿、2代目が廃業寸前で引き継ぎ再生させるまで

1軒の民宿から始まる、地域再生の種――。
奈良県の北東部、宇陀市室生(むろう)地区。女人高野と称される室生寺への参拝客でかつてはにぎわったものの、高齢化の影響などで客足が遠のき、地域に残る宿泊施設は一時期、たった1軒の民宿のみになった。
その1軒、「民宿むろう」を営んできたのは山本徳章さん(56)。厳しい経営状態にあった民宿を両親から受け継ぎ、今の時代に合った形に再生したことで、大手予約サイトじゃらんnet「奈良の民宿売り上げランキング」ではつねに上位にランクインするほどの人気になった。
最近では近隣にほかの宿泊施設もオープン、バーベキュースポットも誕生するなど、里はにぎわいを取りもどし始めているという。
山本さんは、この里でどんな新たな物語の種をまいているのだろうか?
かつては観光客でにぎわった山里
うねりを帯びた県道28号線を進んだ先にある、奈良県宇陀市室生地区。6月某日の昼すぎ、「民宿むろう」を訪れた。
アジサイが咲く庭を通り、蓮の花が描かれた暖簾(のれん)をくぐると、和モダンの趣のある内装が目前に広がる。
土間には、金箔の背景に描かれた龍の絵と獅子のお面が飾られており、左側には靴を脱がずともくつろげる囲炉裏のある待合室、玄関を上がって右手には広々とした居間。大きな窓からは室生の山々が青々と広がっていた。

昔から観光地であった室生。50年前は約45万人が訪れ、室生寺や龍穴(りゅうけつ)神社を訪れる大型のバスが道を行き交い、賑やかな盛り上がりを見せたという。
だが、時代の流れとともに観光客は約3分の1に激減。数軒あった旅館はことごとく廃業や休館をし、この里の宿は「民宿むろう」だけになった。

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