奈良「龍神の里」の小さな宿が「割と人気」の理由。子ども時代「すごく嫌だった」実家の民宿、2代目が廃業寸前で引き継ぎ再生させるまで

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大和茶粥
玄米と黒豆を大和ほうじ茶で煮込んだ、室生伝統の大和茶粥(手前)など(写真:民宿むろう)

廃業寸前だった民宿を受け継ごうと決意

時が経った2015年、山本さんは両親から「民宿を廃業しようと思っている」と聞いた。祖母はすでに他界。80代の父は役場の仕事を引退し、畑仕事をしながら民宿を手伝っていたが、体力的にしんどくなってきているようだった。

毎年宿泊しに来てくれた常連客も年齢を重ね、「階段が多い室生寺の参拝は難しい」と足が遠のいていた。

室生の景色
里山の風情があふれる室生の景色(写真:筆者撮影)

その頃の山本さんは、奈良県桜井市の原木市場で木材の競りの進行役である「振り子」として働いていた。その間に結婚し、3人の子どもたちとともに、民宿の隣に家を建てて住んでいた。民宿はたまに手伝う程度だった。

両親にはのんびり余生を過ごしてもらおうと、山本さんは「もう辞めさ」と伝えた。だが、ふとある考えが頭によぎった。

この頃には、数軒の旅館が廃業や休館。室生寺がある観光地でありながら、宿が1軒もなくなる……。この民宿がなくなるのは、地域にとって損失ではないか、と。

幸い、70代の母は今も現役で働けている。客から好評の料理も健在だ。

「やり方次第では、ビジネスチャンスかもしれん」

子どもの頃は嫌いだった民宿の経営。だがそれは「自分だったら、もっとこうするのに」という歯がゆい思いの裏返しだったのかもしれない。山本さんは1年ほど原木市場で働きながら、民宿の構想を練った。

山本徳章さん
山本徳章さん(左)と母の冨美恵さん(写真:筆者撮影)

2017年、山本さんは48歳の時、正式に民宿を継いだ。ただ、今まで通りの民宿の売り上げでは、自分と家族の生活は守れない。「せめて、自分の給料分だけでも確保しなければ」と考えた。

そこで、母・冨美恵さんとともに宇陀市の商工会議所へ出向き、相談をすることに。商工会議所の担当者は、とても親身になってくれたという。

まず、宿泊料金を上げることを提案された。「民宿で1泊1万円を超えるのはどうなんだろう?」と山本さんは思い悩んだが、民宿の低価格なイメージから脱却しなければならないとも思った。

そこで、値上げしても客に満足してもらえる“付加価値”を探ることにした。

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