2%の基調的物価上昇率にこだわる日銀。その姿勢が法の精神や国民感覚との乖離を生んでいないか。

1996年の秋だから、約30年前のことになる。
首相の「私的勉強会」と位置づけられた中央銀行研究会が日本銀行法改正の議論を重ねていた。
それまでの法律は戦時立法。「日本銀行ハ専ラ国家目的ノ達成ヲ使命トシテ運営セラルベシ」などという仰々しい条項が幅を利かせていた。これに対し、日銀の独立性確保を目指していた研究会は、法律の理念として「物価の安定」という表現を導入しようと、こんな議論を交わしていた。
「物価の安定という(中央銀行の)機能については、これはほとんど全く異存がないのではないか。ただ、やはり物価の安定という政策も、総合的、一般的な経済政策の中の一つですし、目指すところは国民経済の安定的、持続的な発展というところでございますから、当然一般行政の政策と十分協調を保ちながらやる」(1996年9月11日、中央銀行研究会第5回議事録から今井敬委員の発言)
「日本銀行は単に物価の安定だけを見ていくのではない。全体として国民経済の健全な発展に資するという目的で物価の安定を考えているんだということは明確にしておいていただきたい」(同年10月3日、同第7回議事録から館龍一郎委員の発言)
物価安定で国民経済の健全な発展に資する
これらの議論を経て1998年に施行された新日銀法ではこう書かれた。
「日本銀行は、通貨及び金融の調節を行うに当たっては、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することをもって、その理念とする」(第2条)
話は2025年に飛ぶ。6月の消費者物価指数(CPI)上昇率が前年同月比3.3%(総合)だったように、ここ数年のインフレ傾向は明らか。CPIは、総合でも、「生鮮食品を除く」(コア)でも、「生鮮食品およびエネルギーを除く」(コアコア)でも、上昇率2%以上の状態が相当期間続く。
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