いったい「異次元緩和」をする必要はあったのか? 「壮大な実験」の失敗ではっきりしたことは何か

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「異次元緩和」「イールドカーブコントロール」「ETFやJ-REITの買い入れ」をいっぺんにやめ、「普通の金融政策」に移行した日銀の植田総裁。筆者は「すでに金融正常化は実現した」と評価する(写真:ブルームバーグ)

すばらしい。

植田和男・日本銀行総裁は期待どおり、「腹を据えて静かに闘う」という彼の本領を発揮し始めた。

いっぺんに「イレギュラーな政策」をやめた植田総裁

この連載は競馬をこよなく愛するエコノミスト3人による持ち回り連載です(最終ページには競馬の予想が載っています【2024年1月5日編集部追記】2024年1月1日、山崎元さんは逝去されました。心から哀悼の意を捧げ、ご冥福をお祈りします)。記事の一覧はこちら

3月18~19日の日銀政策決定会合で、日銀はマイナス金利を解除しただけでなく、異次元緩和を一気に終了してしまった。ついでに、これまでの大規模緩和の中で最も異常な枠組みであるイールドカーブ・コントロール(=YCC、長短金利操作)、さらにはETF(上場投資信託)およびJ-REIT(不動産投資信託)の買い入れまでも、いっぺんにやめてしまったのだ。

これまでの数年間、われわれを含めた外野は、金融政策正常化の道筋として、この3つのイレギュラーな政策をどのように、どの順番で解除していくのか、散々議論してきた。それを事もなげに、3つ同時にやめてしまった。記者会見で、新しい金融政策の枠組みをなんと名づけるか、コメントを求められ、「普通の金融政策です」と。

カッコいい。

しかし、まさにそのとおりだ。これこそが正常化だ。ある意味、量的緩和も半分は終わったといえる。あるいは、植田総裁の頭の中の枠組みでは、もはや量的緩和ではないのかもしれない。

実際、マネタリーベースの拡大に関する「オーバーシュートコミットメット」は外された。植田総裁の言う「短期金利を操作手段とした普通の金融緩和」になったのだから、マネタリーベースを目標とする量的緩和(日銀による元祖量的緩和)は終了したのだ。

あとは、日銀が国債などのリスク資産を抱えるバランスシートポリシーをどうするかだ。現在ではこれが量的緩和だと思われているが、アメリカのベン・バーナンキFRB(連邦準備制度理事会)元議長は、自身では決して量的緩和という言葉を使わず、バランスシートポリシーと呼び続けた。まさに今、日銀はこの政策による、バランスシートに残ってしまっている遺産をどう処理していくかということが残っているのである。

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