いったい「異次元緩和」をする必要はあったのか? 「壮大な実験」の失敗ではっきりしたことは何か

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次に、バランスシートが肥大化したことによる弊害だが、これは、まさに今後も続き、リスクが顕在化するとすればこれからがデメリットが現実化する可能性が高いのであるが、金融市場の不安定化、ボラティリティー(変動率)の急変化の可能性がある。これも前述の負の遺産問題である。

最悪の帰結としては、政府の財政破綻リスクを高めたことであり、中央銀行自身の信認低下リスク、通貨の信任リスクも高めてしまうということである。

しかし、直接の、すでに実現している最大の問題は、われわれの目の前にある過度の円安である。「これは賛否両論ある」というかもしれないが、そうではない。為替は妥当な水準で安定することが重要であり、1ドル=150円はどう見ても妥当ではなく、また安定とはほど遠く、何度も大きく円安に振れ、少し戻し、再度大きく円安に、ということを繰り返してもきた。

そして、異常な円安水準が定着しそうにも見える。これは、ほかの要因もあるが、異次元緩和がきっかけとなったことは間違いなく、また同時に、異常な円安水準からさらなる異常な円安になることを助長したこともある。

「異次元緩和のメリット」は何だったのか

一方、異次元緩和のメリットは何だったのか。あるいは、メリットとなる可能性があってトライしたが、実現しなかったことは何だったのか。

メリットは、私個人の意見としては何もないが、一般的には株価上昇と円安進行のきっかけを作ったということである。後者は、前述のように過度の円安のきっかけとしてはデメリットである。2011年の震災後の1ドル=80円割れ水準からの脱出という意味ではプラスとも捉えられる。

ただし、異次元緩和が始まった2013年にはもう異常な円高は終了していたから、これはなんともいえない。したがって、はっきりしているのは、異常な株安からの脱出のきっかけになったということだ。

次に、黒田前総裁自らが述べているメリットがある。黒田氏は、総裁就任後1年あまりでの講演(2014年6月23日経済同友会会員懇談会)で以下のように言葉を述べている。

「異次元緩和により、日本経済の問題はこれまで需要側にあると思われていたが、それが実は供給側にある、という認識が広まってきた」

すなわち、日本経済の真の問題はどこにあるのか。需要不足だと思われていたが、異次元緩和でとことん刺激して需要不足は解消したが、それでも日本経済の問題は解決しなかったから、供給側の問題だったことが幅広く認識された、ということなのだ。

つまり、異次元緩和は日本経済の真の問題を何も解決しなかったのだ。メリットとは、需要側にあるという誤解を解いたということなのだ。

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