狂っているのか。
インフレはそもそもよいことではない。物価が安定していることが重要なのだ。第2に、インフレ率が高まったのは、金融政策とはまったく無関係に、新型コロナウイルスと、ロシアのウクライナ侵略で起きたサプライショック、および構造的な人手不足によるものだ。
そもそも、金融政策による解決というアプローチそのものが、根本的に間違っており、しかも、それは壮大な実験をする前からわかっていたことだった。黒田氏の講演がまさに示しているとおり、需要不足から生じる問題ではなく供給側の構造問題だと、わかる人にはわかっていたのである。
第3に、結局、日本が闘ってきた(といわれる)デフレとは何だったのか。インフレが問題で、物価高対策を政治家が躍起になってやっているのに、植田総裁が今はデフレではなくインフレだと言っているのに、「まだデフレ脱却とは言えない」などと言っている。では、政治家たちが言っている「デフレ」とは何なのか。はっきりさせる必要がある。
これは「デフレマインド」という言葉のほうが近い。かつ、デフレマインドとは消費者の貧乏人根性で、1円値上げしたらライバルメーカーや隣のスーパーに移るという行動習慣である。
また、それを過度に恐れる、自社の製品の価値と価格戦略に自信を持てない企業の問題であり、赤信号みんなで渡れば怖くないと揶揄される、日本の悪い同調主義が根底にある。コスト高だから、みんな価格を上げざるをえないが、このときどさくさにまぎれて、コストと無関係に、あるいはこれまで我慢していて値上げができなかった分をこの際一気に上げてしまっている。
賃金も同じだ。何かみんなで上げるムードだから、「よし、大盤振る舞いだ。うちはライバルよりもっと上げるぞ」などとやっている。「物価と賃金の好循環」などという概念は真っ赤なうそであり、上げようと思えばもっと前から上げられたのに、雰囲気に流されて上げているだけである。
日本社会の構造的な行動原理の欠陥問題が明らかに
つまり、このような日本社会の人々、経済主体の構造的な行動原理の欠陥に問題があったことが、今回、はっきりしたのである。これは構造的な問題であり、30年の間により強まった可能性もある。
だが、だとしても、はっきりとした構造的な問題であるから、金融政策でそもそも解決ができるはずのない問題だったのだ。それは最初からわかっていたのだ。
したがって、壮大な実験は失敗したのではなく、最初から間違っていたのであり、この点においては、異次元緩和は最初から間違っており、やる必要のない実験であり、副作用のほうは確実であり、はっきりわかっている政策だったのである。
日本経済はバブル崩壊後、「失われた30年」などとも言われるが、最後の10年は「異次元緩和により失われた」ともいえるのである。
(本編はここで終了です。次ページは競馬好きの筆者が週末のレースを予想するコーナーです。あらかじめご了承ください)
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