世界のエネルギー転換は想定より早く困難に直面、日本のエネルギー企業に必要な戦略とは?『マッキンゼー エネルギー競争戦略』の著者に聞く

──これまでマッキンゼーは、脱炭素化やエネルギー転換について、野心的なアプローチやシナリオ分析をしてきました。今回はやや趣が異なり、現下の非常に複雑なエネルギー情勢を踏まえ、詳細かつ念入りに検証している観があります。
脱炭素化やエネルギー転換に関するスタンスは以前から変わっていない。その時々で最善の道筋について検討しており、今回もその点では同じだ。
マッキンゼーではこれまで、ヨーロッパを中心に再生可能エネルギー導入に関する発信が多かったかもしれないが、社内ではさまざまな議論があった。
すなわち、再エネの拡大は遠からず困難な課題に直面するのではないか、再エネ単独ではなく、送配電や蓄電など電力システム全体、ひいてはエネルギーシステム全体という観点で見るべきといった議論で、そのトーンは以前の出版物にも入っている。その課題が、ロシアによるウクライナ侵攻を経て、より顕著に、想像よりも早く到来したと考えている。
転換点を迎えたドイツのエネルギー政策
──本書では、ドイツの現状や今後について詳しく触れています。中長期的に電力不足に陥る可能性が高まっていることや、エネルギー価格高騰の問題などを指摘しています。
ドイツではこの2~3年、エネルギーコストが増大し、産業界から悲鳴が上がっている。エネルギーはトータルコストで考えるべきであり、ヨーロッパの専門家も方向転換が必要だと認識している。
──ドイツではどのような論調の変化が起きているのでしょうか。
今年5月に誕生した現政権で、大きな政策転換の兆しがあると報じられている。象徴的な2つの事例を挙げたい。
1点目はメルツ首相の最初の外遊先がフランスだったということだ。ドイツでは前政権時に脱原発が実施されたが、メルツ首相はほかの国の原子力プロジェクトには積極的にかかわっていきたいと述べている。
2点目は、「現実的な脱炭素化」という文言が連立政権発足時の公式なペーパーに盛り込まれたことだ。エネルギー経済産業相に、ドイツ最大の配電会社の社長を務めていた人物が就任したことが政策転換を物語っている。同氏は、再エネ中心へのエネルギー転換が、系統費用を含めてどのような困難をもたらしているかをよく知っている。
連立政権の協定書にも書かれているが、半年から1年かけてエネルギー需要と供給の実態をモニタリングして現状を可視化するという。これまでの発言から想像すると、今後を見据えた場合の電力の需給ギャップがこれまでの想定よりも大きいといい、電力に関する今後の目標について新たな動きが出てくるようだ。
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