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世界のエネルギー転換は想定より早く困難に直面、日本のエネルギー企業に必要な戦略とは?『マッキンゼー エネルギー競争戦略』の著者に聞く

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──ウクライナ侵攻だけでなく、世界的なインフレーションなどさまざまな要因が重なって、エネルギー価格の高騰が生じたと考えられます。

ドイツに関しても複合的な要因がある。ウクライナ侵攻という大きな問題によって覆い隠されているが、根底には、これまで発電原価が安いとされてきた太陽光発電や風力発電を電力系統に接続する際の送配電コストが上昇してきたことがある。

エネルギー転換という点では、再エネはこれまで考えられてきたほど、トータルコストでは安くない。電気料金が趨勢的に高くなっていることを、産業界を含めてユーザーが気付き始めた。折しもデータセンター新設などで電力需要が増大していく中で、電気料金の抑制を求める声が高まっている。

──本書では、脱炭素化への潮流が続くとする一方で、脱炭素化への道のりが厳しいことが指摘されています。「脱炭素の目標に対する世界各国の進捗を考えると、後退シナリオと現状シナリオの中間にある」とも記されています。

瓜生田義貴(うりうだ・よしたか)/日本におけるマッキンゼー電力・ガスグループのコアリーダー。近年はエネルギー転換を踏まえた電力・ガス業界における大型企業変革プロジェクトにて大幅な収益向上と組織文化の変革を多数支援。グローバルのエネルギーモデリングチームのコアメンバーでもある。本書の主執筆者。東京大学大学院・工学系研究科修士(航空宇宙工学専攻)(撮影:尾形文繁)

いくつかのシナリオを提示したが、いずれのシナリオは、将来のあるべき姿からのバックキャスティング(逆算)ではなく、各国のエネルギー政策や新技術の実用化およびコストダウンの見通しについて、マッキンゼーが日々、顧客と議論する中での最新の情報を元に積み上げ方式(フォアキャスティング)で提示したものだ。

野心的なシナリオが難しいのは、一義的にはコストの問題があるためだ。脱炭素化の当初は再エネ導入などである程度進むが、最後に残る火力発電や鉄鋼、化学などの重化学工業分野については、二酸化炭素回収・貯留(CCS)や水素などの技術を使う必要があり、格段に難度が上がる。すでに現在においても困難に直面している。

産業競争力の視点が重要に

──安全性(Safety)を第一にしたうえで、安定供給(Energy Security)、経済効率性(Economic Efficiency)、環境適合性(Environment)のバランスを取ろうとする「Sプラス3E」という考え方を、日本のエネルギー業界は重視しています。本書ではそこに4つ目のEとしてEconomic Competitiveness(産業競争力)が重要な要素になると言及されています。

4つ目のEは、3EのうちのE (経済効率性、Economic Efficiency)に包含されるのではないかとの指摘も読者からいただいたが、雇用を作る、産業に必要なエネルギーをタイムリーに提供する、産業を創出するといった役割をとらえ、今までの3Eとは異なる軸が必要になると考えて4つ目のEの必要性を提起した。

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