日本も本格導入、排出量取引制度への期待と課題 諸富徹・京都大教授「意味ある価格設定がカギ」
日本でも排出量取引制度が本格導入される。制度に詳しい諸富徹・京都大学教授が制度の要諦について解説する。
――排出量取引制度を法制化し、大手企業の参加を義務付けるという政府の方針をどのようにとらえていますか。
排出量取引制度の本格稼働については、脱炭素化実現への後押しになるものとして評価したい。これまで二酸化炭素(CO2)を含む温室効果ガス削減の取り組みについては、もっぱら企業や業界の自主性に任されていた。地球温暖化対策税という、二酸化炭素排出量に応じて課税する税制はあるものの、非常に税率が低く、排出削減のインセンティブ効果はほとんどないと指摘されてきた。
今般の政策では、一定規模以上の企業はすべて排出量取引制度への参加が義務付けられる。これはいままでにない画期的な取り組みだ。
意味のある削減目標の設定が重要
――排出量取引制度の本格導入のうえで重要な課題は。
重要なことは、制度創設に際し、どのような削減目標を設定するかだ。
日本がパリ協定の事務局に提出した「国別貢献目標」(Nationally Determined Contribution:NDC)では2013年度比で2030年度に温室効果ガスを46%削減するという目標が打ち出されている。
排出量取引制度においても、産業部門全体としてNDCに沿った削減スケジュールで進むことを念頭に、業種別に排出効率(排出量/生産量)の上位X%をベンチマークとし、排出枠を配分するのが望ましい(いわゆる「ベンチマーク方式」)。ベンチマークよりも排出効率のよい企業は排出枠が余るので売却できるが、効率の悪い企業は排出枠が足りず、他企業から購入を迫られる。
制度設計のうえでもう一つ重要な点は、未達成の場合のペナルティをどうするかだ。たとえば配分された排出枠を超えた分について、CO2排出量1トン当たりいくらといった形で課徴金を徴収するといった仕組みが、わが国では初めて導入されることになるだろう。
ヨーロッパ連合(EU)が導入した排出量取引制度であるEU-ETSのように厳密に産業界全体の総量(キャップ)を定め、それと整合的な形で個別企業に排出枠が割り当てられるわけではない。
しかし、ベンチマーク方式の下で定められた排出効率にその企業の生産量を掛け合わせて算出された排出量が、事実上、その企業の排出削減目標になるだろう。第三者機関がその妥当性をチェックするほか、目標達成状況をモニタリングする仕組みになると思われる。
すでに東京証券取引所には、自主的参加型の排出量取引市場が創設されている。排出量取引制度を発展的に義務的な制度に改組していく過程で、今後、取引市場を活用する動きが活発化し、市場も活性化していくと見られる。
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