奈良「龍神の里」の小さな宿が「割と人気」の理由。子ども時代「すごく嫌だった」実家の民宿、2代目が廃業寸前で引き継ぎ再生させるまで
最初に取り組んだのは、設備をリニューアルするための資金調達だ。商工会議所の担当者に教えてもらいながら自治体からの補助金や助成金などを申請すると、数百万円の補助金が下りた。また、公庫から2000万円の融資を受けることができた。山本さんはそれらのすべてを民宿の改装費用に充てた。
共同だったトイレを男女の個室に、2つあったお風呂の1つを露天風呂に改装。1階の食事をするスペースには囲炉裏を置き、室生の景観を一望できる大きな窓を設置した。また、障子だけで仕切っていた大部屋は個室にし、「1日4組限定の古宿」にシフトチェンジした。

事業承継とはいえ、思い切った投資のように思える。だがそれは、山本さんの過去のマーケティング分析から来ていた。
「女性のひとり旅が多いなっていうのはわかっていたんです。だから、女性1人でも安心して泊まれる宿にしたい、っていうのが一番の願いでした」
女性のひとり旅が多い理由は、観光スポットである室生寺が「女人高野」と呼ばれるからだろう。女人高野とは、鎌倉時代、和歌山県にある高野山が女性の入山を禁止していたことから、かわりに女性の参拝を受け入れる寺のことをいう。
だからこそ山本さんは、室生を訪れる女性客のニーズに応えられるよう、設備面の充実を図ったのだ。

『龍ブームが来てる』
山本さんが民宿経営に取り組み始めた頃、「ニュージーランドのワイタハ族の長老が室生の里を訪れる」という話を聞いた。
「シャーマンと呼ばれている、たいへん人気な方で。室生寺の境内で『龍サミット』っていうのをされたんです。すると、全国から300人くらいが御堂に集結しました。それで、『うわ、龍ブームが来てるな』って思ったんです」
調べてみると、室生にある「龍が住む」と言われる穴がある龍穴神社や、パワースポットと呼ばれるエメラルドグリーン色の滝壺がある龍鎮神社が注目されているとわかった。
「龍鎮神社は学生の頃によく涼みに行った場所。生まれ育った里にこんな知られざるポテンシャルがあったんだ」と驚いた山本さんは、室生ならではの観光地巡りと宿泊をセットにしたプランを作った。

自ら客を案内できるように、古くから伝わる室生の歴史や伝説を勉強し、居酒屋に集まった近所の年長者に地元にまつわる昔話を聞き回った。
こうして誕生したのが「龍巡りプラン」だ。日の出から出発し、室生に伝わる龍神伝説の名所を巡る。
早朝に出発する理由は「誰もいない朝にしか見られない景色がそこにあって、古来の人たちがなぜこの地で龍神信仰を深めたのかを感じてもらいたいから」だという。
1日1組限定、1泊2食付きで1人3万1900円から、という民宿にしては高い価格設定だが口コミで評判が広がり好評だという。
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