
[Book Review 今週のラインナップ]
・『競争なきアメリカ 自由市場を再起動する経済学』
・『移動と階級』
・『ポピュリズムの仕掛人 SNSで選挙はどのように操られているか』
評者・BNPパリバ証券経済調査本部長 河野龍太郎
驚くべきことに、「自由な競争」はもはや米国経済の代名詞とはいえない。本書は、いかにして米国が競争的ではなくなっていったか、その過程をデータに基づき緻密に描いたものだ。
規制の後退で寡占が進んだ米国 欧州は競争促進的な環境を整備
かつて米国は、自由参入と価格競争が機能するダイナミックな市場経済だった。しかし金融、医療、ITなど多くの分野で市場集中や寡占が進行、価格水準が上昇した今、企業の利益率が高止まりする一方で、賃金は伸び悩む。
本書は、その原因となった制度変化に着目する。1980年代以降、独占行為を取り締まる反トラスト政策が後退する中でロビー活動が蔓延した。規制は産業の虜(とりこ)となり、市場集中を許す。独占が利幅の拡大を可能にしただけでなく、労働市場の「買い手独占」も進み、賃金が抑えられ労働分配率が大きく低下した。規制と労使の力関係の逆転こそが、今日の米国経済の非効率性と格差の根源だと論じる。
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