34歳で死に直面「大久保利通」襲った想定外の事態 実務能力の高さをいかんなく発揮した矢先の恐怖

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大久保利通の素顔に迫る連載第10回です(写真:road/PIXTA)
倒幕を果たして明治新政府の成立に大きく貢献した、大久保利通。新政府では中心人物として一大改革に尽力し、日本近代化の礎を築いた。
しかし、その実績とは裏腹に、大久保はすこぶる不人気な人物でもある。「他人を支配する独裁者」「冷酷なリアリスト」「融通の利かない権力者」……。こんなイメージすら持たれているようだ。薩摩藩で幼少期をともにした同志の西郷隆盛が、死後も国民から英雄として慕われ続けたのとは対照的である。
大久保利通は、はたしてどんな人物だったのか。その実像を探る連載(毎週日曜日に配信予定)第10回は、「生麦事件」の処理に奮闘する大久保についてお届けする。
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<第9回までのあらすじ>
薩摩藩の郷中教育によって政治家として活躍する素地を形作った大久保利通(第1回)。21歳のときに父が島流しになり、貧苦にあえいだ(第2回)が、処分が解かれると、急逝した薩摩藩主・島津斉彬の弟、久光に取り入り(第3回)、島流しにあっていた西郷隆盛が戻ってこられるように説得、実現させた(第4回第5回)。
ところが、戻ってきた西郷は久光の上洛計画に反対。勝手な行動をとり、再び島流しとなる(第6回)。一方、久光は朝廷の信用を得ることに成功(第7回)。大久保は朝廷と手を組んで江戸幕府に改革を迫るため、朝廷側のキーマンである岩倉具視に「勅使派遣」を提案。それが受け入れられ、勅使には豪胆な公卿として知られる大原重徳が選ばれた(第8回)。得意満面な大久保を不測の事態が襲う(第9回)。

イギリスの要求を突っぱねた薩摩藩

大久保利通は「薩摩藩が朝廷と組み、幕府に改革を促す」という積年の夢をついに叶えた。しかし、京に向かう道中で遭遇したイギリス人を薩摩藩士が斬り殺してしまうという、思わぬ事件が発生する。世に言う「生麦事件」である。

当然、イギリス側は猛抗議している。幕府に対して、謝罪と賠償金10万ポンドを要求し、薩摩藩に対しても、下手人の逮捕および処刑と慰謝料2万5000ポンドの支払いを迫っている。

イギリスを敵に回したくない幕府がすぐに支払いに応じる一方で、薩摩藩は抵抗を示した。久光に命じられた大久保はこんな報告書を書いている。いわば、公式見解といってよいだろう。

「そもそも大名の行列は作法が厳しい。たとえ国内の人でも無礼をはたらけば切り捨てにする習慣である。いわんや外国人であれば尚更だ」

こんな言い分が通るはずもないが、幕府のように妥協してしまえば、一気に付け込まれると考えたのだろう。あくまでも突っぱねたことで、イギリス代理公使のニールは、鹿児島に戦艦を派遣すること決意。薩英戦争の引き金が、このときに引かれることになった。

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