落語界に学ぶ、一人前になるための修行法

【キャリア相談 特別編】第2回

塩野:そういう子弟の勝負があったのですね。そうした中で前座から二つ目に上がっていきますが、どこらへんで「ちょっとわかってきたかな」と思えたのですか。

志の春:入門して4~5年経ったときですね。ようやく気遣いの部分でもわりとすんなりいける感じになった。結局、僕の場合、タイミングの問題だったのです。たとえば電車に乗っていて、座っているとします。目の前に杖をついたお年寄りが乗ってくる。そのときスッと立ち上がって「どうぞ」と言えば何てことはない。でもそこで一瞬、間(ま)がズレて、どうしようかなと思っていると、気恥ずかしくなったり余計な気を回し始めたりして、なかなか立てなくなるじゃないですか。でもそこをスッといけるようになって、それから全体的にうまく回り始めました。

塩野:ああ、なるほど。いい話ですね。

志の春:ええ。たぶんもう体に入ったのでしょうね。落語のほうも褒められはしないけれど、「お前はその路線でやっていけばいい」というくらいにはなったので、そこからちょっと変わり始めました。

落語に学ぶコミュニケーション力

塩野:それでついに名前をもらった。

志の春:そうです。名前がついた瞬間も、その直前まで説教されていました。「お前みたいなやつは、どうしようもない。落語家になったって、もう何もならないということは、わかっている。わかっているんだから、そればっかり言っていてもしょうがないんで、まあいい。お前は明日から『志の春』だ」って。

塩野:うれしかったでしょうねえ。これから落語の世界の何を魅力として伝えたいですか。

志の春:僕はやっぱり、落語を初めて見たときに映像が浮かぶのが快感だったんですね。落語のタイプもいろいろあって、たぶん今のはやりは、その人のキャラクターを前面に押し出して、その人のつくったギャグでお客さんを笑わせる感じ。でも僕はもう落語が始まってしまえば自分はいなくていい。僕なんか消えてしまって、その物語がドーンと出るような落語をやりたい。

塩野:なるほど。やっぱり落語って完成されたエンターテインメントですね。今おっしゃったように、情景が見えてくる、人の会話が聞こえてくる。誰かを説得したりアドバイスしたりするときのコミュニケーションも、落語に学べる気がしますね。

志の春:今、言われたコミュニケーションの部分が大事です。われわれもお客さんとコミュニケーションをとりながら演じているところがあります。

たとえば落語では人物を演じ分けるとき、右を向いたり左を向いたりする。これを「上下(かみしも)をつける」と言うのですが、右を向いたときのセリフがお客さんにちゃんと伝わっていないようなら、ちょっと間(ま)をおいて、お客さんの頭の中に浸透してから次のセリフにいく。あるいは「これはもうわかっているな」というときは、間を詰めて、リズムを出していくこともあります。だから同じ噺でも毎回違うんですよ。16分でやるときもあれば20分かかることもある。そこは全部呼吸なんですよね。

それは修行中に言われていた「俺を快適にしろ」ということと、たぶんつながっていて、お客さんからの「気」みたいなものを感じなければならない。それがライブの芸である落語のいちばん大事なところです。

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