落語界に学ぶ、一人前になるための修行法 【キャリア相談 特別編】第2回

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塩野:そうですか、お客さんの反応がダイレクトに伝わるから。あの、音楽のラップってあるでしょう。私、ラッパーはみんな落語を勉強すればいいのにと思いますよ。

志の春:そうですね。落語でも最初に徹底的に学ぶのは、「リズム」と「間(ま)」と「調子」です。演じるのはそのあと。まずは話にメロディがないと、15分間、人の話を聞いていられない。

塩野:そう考えると落語って独特ですね。スタンドアップコメディとも違いますし。

志の春:落語みたいな芸は、その面白さがすぐにわかるものではないでしょうね。テレビのバラエティみたいに字幕が出て、笑い声も入っていて、ここは笑うところだと教えてくれるわけではない。でもその分、豊かなものがあります。

“今の自分は仮の姿”と思っている人へ

塩野:志の春さんは、英語による落語もなさっていますね。

志の春:はい、これまで海外でやったのはシンガポールだけで、あとは日本国内の外国の方の前でやったりしますけど、反応はめちゃくちゃいいんですよ。

塩野:私も聴きましたが、すんなり入ってきました。英語が完璧にうまいからでしょう。もし英語がつたなかったら、そこで止まっちゃう。

志の春:英語に訳すと、シンプルになって、ストーリーがすんなり入ってくるかもしれませんね。先ほどおっしゃったように、ひとりの演者がいろんな人物になって会話だけで進めていくというスタイルは珍しいのですが、スタンドアップコメディには同じ形式があります。「あいつはこう言うんだよ」「すごいですねー」「それで俺はこう言ったんだよ」と会話で進めていく。でもつねにコメディアン本人が真ん中にいる。落語は演者がいなくなるので、ふたりが話している絵が見える。こんなスタイルはあんまりなくて、すごくパワフルだというので、外国の方に喜ばれることは多いですね。

塩野:今後は英語による落語を続けていく感じですか?

志の春:そうですね。ほかの国の人たちは日本人はまじめなだけだと思っているかもしれないけど、これだけ豊かな笑いの文化があるんだぜ、と言いたい。

塩野:確かにほとんどが庶民の話で、誰かをこきおろすわけでもなく、自虐してみせるわけでもない、すごく平和な笑いだから、海外でもやりやすいですよね。それに落語はひとりの人間だけで芸が完成しているところもすごい。ほとんど舞台装置がいらない。

志の春:そう、だから落語家は呼びやすいですよ(笑)。

塩野:なるほど。じゃあ最後にひとつだけ。今の自分は仮の姿で本当はミュージシャンになりたいとか、芸人になりたいとかいう人に対して、メッセージを送っていただければ。

志の春:そうですね。僕の場合は、ほかの選択肢が考えられないぐらい、突き動かされる直感みたいなものがありました。そういう直感はうそではないので、そういうものがあれば、そっちにいくしかないだろうと思うんですよね。本当はそこから続けていくのが大変なのですけど。でも、とにかくその道に入ったほうがいいと思います。何年も経ってから「俺、もし○○になっていたら、このぐらいなれたぜ」と言うのは格好悪いですから(笑)。

塩野:おっしゃるとおりです。ありがとうございました。

(構成:長山清子、撮影:梅谷秀司)

塩野 誠 経営共創基盤(IGPI)共同経営者/マネージングディレクター JBIC IG Partners 代表取締役 CIO

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しおの まこと / Makoto Shiono

国内外の企業への戦略コンサルティング、M&Aアドバイザリー業務に従事。各国でのデジタルテクノロジーと政府の動向について調査し、欧州、ロシアで企業投資を行う。著書に『デジタルテクノロジーと国際政治の力学』(NewsPicksパブリッシング)、『世界で活躍する人は、どんな戦略思考をしているのか?』(KADOKAWA)等、多数。

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