《若手記者・スタンフォード留学記 19》15カ月ぶりの日本で感じたこと



 毎日のように、東京や実家の北九州界隈で、スポーツクラブを巡っているのですが、どこに行っても、老人だらけ。ジャグジーに漬かっておしゃべりしたり、ハワイアンダンスを踊ったり、みなさん、なかなか楽しそうです。高齢者にとって、スポーツクラブは、いまや病院と並ぶ大事な地域のハブになっているのだな、と実感しました。

私は、いわゆる「小泉改革批判」、「新自由主義批判」には反対で、日本はどんどん改革を進めるべきだと思っていますが、競争促進だけでは、真の発展はのぞめません。やはり、人々の安住の地となる、地域コミュニティーが不可欠です。

アメリカでは、教会が地域コミュニティーの核になっていますが、全体にアメリカほど宗教心がそれほど篤くない日本では、何がその役割を担えるのでしょうか?

その答えは「学校しかない」と、杉並区立和田中学校で数々の改革を成功させた、元リクルートの藤原和博さんは自著の中で語っています(『新しい道徳』ちくまプリマー新書)。

この意見に私も、全面的に賛成です。さらに私は、学校を、世代を超えた一大コミュニティーへと育て上げるために、スポーツジムとカルチャーセンターを学校に隣接させればいいのではないかと思います。子供、両親、祖父母と親子3世代が集結する、憩いの場を作り出すのです。

具体的なイメージはこんな感じです。

おばあちゃんは、午前はジムで水中歩行した後、午後は資産運用の講座に参加して、日本茶で一服。夕方になると、隣の保育園に、働く嫁に代わって、孫を迎えにいく。ときには、格安で、ベビーシッターとして、他の赤ちゃんの面倒もみる。お父さんも週1回は、会社を早く出て、スポーツジムで泳いだ後、部活を終えた息子と一緒に家路に着く。週末には、得意の英語を生かして、カルチャーセンターで英語を教える、などなどいろんな組み合わせが考えられます。つまり、地域全体で、子育て、家族の交流を図っていくわけです。

ほかにも、元教師が、ただで小学生や中学生に勉強を教えてくれるコーナーを設けてもいいですし、英語、中国語、韓国語講座を充実させて、異文化交流のハブにしてもいい。親子で学ぶ料理講座を開設してもいいですし、大学教授を呼んで、地元の歴史を学んでもいい。さらに、講演スペースをつくって、市議会議員や県会議員に、毎年、自分の実績をプレゼンテーションさせてもいい。日本を習い事、勉強大国へと導いていくのです。

個人の自立を促すことは大切ですが、アメリカほど個人主義に徹するのもどうかと思います。

今、私にボランティアで英語を教えてくれている80歳のアメリカ人男性は、元医者の知識豊富な紳士で、自立を絵に描いたような立派な人物です。ただ、その生き方には感服することしきりなのですが、ときに見せる寂しさが切ない。以前、彼が、ポツリと「子供が親の面倒を見てくれる、イタリアや日本がうらやましい」ともらしたのが印象的でした。個人主義を是とするアメリカでは、成人になると親子は別々で、子供が親の面倒を見るというカルチャーはあまりないのです。

第17回目「私が日本の未来を悲観しない理由。オシャレで有能な日本の若者がたくさんいるから」で書いたように、団塊の世代の退場による世代交代こそが、日本にとって重要なことは論を俟ちません。ただ、いたずらに世代間対立を煽るだけでは、問題は解決しないでしょう。

大事なのは、安心かつ幸福な老後を用意して、老人のエネルギー、旺盛な知識欲、コミュニティーへの渇望を、地域全体、そして、日本全体の繁栄につなげていくようなシステムづくりをすることです。老人のエネルギーと権力と金を、どう平和的に若い世代へと移していくか。それが、今後の日本における最大のテーマのひとつとなるはずです。


佐々木 紀彦(ささき・のりひこ)
 1979年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、東洋経済新報社で自動車、IT業界などを担当。2007年9月より休職し、現在、スタンフォード大学大学院修士課程で国際政治経済の勉強に日夜奮闘中。

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