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味の素、初の技術畑出身トップが激白、課題は「大型のヒット商品や新事業が出ないこと」。今必要なのは「スピード感」と「危機意識の醸成」

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中村茂雄/なかむら・しげお 1967年生まれ。1992年に東京工業大学で修士課程修了後、味の素入社。2019年味の素ファインテクノ社長、2021年味の素アミノサイエンス事業本部化成品部長、2022年ブラジル味の素社長を経て、2025年2月味の素代表執行役社長、最高経営責任者、同6月に同社取締役(写真:今井康一)
2025年2月、味の素は社長交代を突如発表した。藤江太郎前社長(2022年に社長就任)は体調不良で退任し、ブラジル味の素社長だった中村茂雄氏が経営トップに就いた。中村氏は当社初の技術分野出身のトップで、長年電子材料の開発に携わってきた経歴を持つ。技術畑で得た知見を社長としてどう生かすのか、中村社長に聞いた。

 

食品では売上高が10億円を超える新商品が出ていない

――社長就任から数カ月で、見えてきた課題はありますか。

役員や各機能の責任者と1on1を実施し、私自身でクロスSWOT分析を行ったりして、4つの課題(弱みを克服して市場の機会を掴む、強みを生かして脅威に備えるなど)を抽出した。

共通の課題として上がったのが、高性能半導体(CPU)の絶縁材に使われる層間絶縁材料「味の素ビルドアップフィルム(ABF)」のような大型の新事業、新製品、新サービスがしばらく生まれていないということだ。食品事業でも、売上高が10億円を超えるような新商品は出ていない。「クック ドゥ 極」のようにこれに近い数字の商品も出てきたが、これからだ。

さらに当社には、中長期の具体的な戦略も少ない。こうした課題をベースに、2025年4月に「中村新体制の60日プラン」を始動した。この取り組みでは、役員たちに対して、抽出した4つの課題の何が問題なのか、今後どうすればいいのかなどのアクションプランを1枚にまとめてほしいとお願いした。

――60日とは随分短期間ですね。

普通は「100日プラン」だから、60日は当然短い。でも、役員にまでなっている人たちにとって初めて見る課題ではないはず。まずはみんなで動き出すきっかけをつくり、レールが敷けたらよい。やはり、一番の課題だと思っているのは新規事業なので、これの一番よいあり方をメインで考えている。

――売上高の約5%、事業利益の約25%(2025年3月期実績)を占める電子材料畑が長いですが、その経験を主軸の食品や他の事業にどう生かしますか。

入社から長い間電子材料の開発に関わり、1996年からABFを開発してきた。1999年に量産を始めたとき、顧客から「すごい、これは10年もちます」と褒められた。たしかに半導体業界で10年はたいへんな長さだ。しかし、当時28歳だった私は、「10年後に仕事がなくなる可能性があるのか」と危機感を持った。

しかも、半導体材料には2年に1度オリンピックのように競い合う場がある。このタイミングで必ず勝ちたい、よりよい技術を開発したいとの思いがあり、成功の型として考案したのが「高速開発システム」だ。これは電子材料だけでなく、食品などにも応用できる。さまざまな事業に横展開していきたい。

――高速開発システムとは具体的にどのようなもの?

将来のニーズを先読みする方法だ。例えば電子材料ならば、まずは顧客から要望が来る前にある程度材料を開発しておき、ニーズが来たら複数提案する。複数あれば採用される確率が上がる。さらに顧客からの改善要求まで先読みして、改善の材料も複数出す。これをずっと繰り返すというものだ。このシステムの効果もあり、ABFは1999年の量産開始から26年間、高シェアであり続けている。

経営資源のうち、ヒト、モノ、カネ、情報はより大きな企業のほうが持っている。でも時間は公平だ。だから、高速であることが差別化の要素になる。顧客から電子材料が欲しいと言われたときに、期限を聞くと返ってくるのは決まって「イエスタデイ(昨日)」という回答だ。いかに速さのニーズに応えられるかが、本当に重要だと感じる。

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