FA(ファクトリー・オートメーション)部品大手のミスミグループ本社(ミスミG)は、膨大な種類の商品を扱い、顧客に対し「確実・短納期」を掲げて成長してきた。その特性から小口の受注が主だったが、2024年3月には「従来のミスミの概念を壊す」と自ら豪語する、新サービス「D-JIT(ディージット)」を開始。誕生までの紆余曲折を追った。
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(2から続く)アイラモルト「ラフロイグ」の炭酸割りが入ったグラスを傾けながら、ミスミGの木戸雄介氏(現DJシステム推進本部長、経営執行役)は自宅でぼんやりと、普段は見ないテレビ番組を眺めていた。時は2020年10月某日の午前0時過ぎ。頭の中を占めるのは、数日前に受けた“特命”のことばかりだった。
「ミスミには変革が必要だ。会社の方向性を変えるような、何か新しいものを考えてくれないか」
同社の大野龍隆社長から電話で直々にそう言われ、新サービスを開発するための部署へ移るよう頼まれたのだ。木戸氏は当時、他社ブランド品の流通部門に所属し、30代ながら事業部長を務めるホープ。100人ほどの部下を従える立場で、翌年度の事業計画を練っている最中だった。
進化への危機感
ミスミGは従業員の挑戦を促すため、人事の「手挙げ制度」を導入している。一方的な異動を命じることはなく、社員が自分で希望の業務や役職を選べる。だから、木戸氏はこの要請に戸惑った。今の仕事への責任感もある。受けるべきか否か――。ひとり懊悩を深めていると、テレビから聞こえてきたお笑い芸人の声で我に返った。
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「自分の本当の行き先は、自分じゃない人のほうがよくわかっているんだよ」
確かにそうかも、と木戸氏は感じた。新卒でミスミGへ入社後、主に関わってきたのは、軍手などの消耗品や工具を売るビジネス。FAや金型の部品といった社内の花形部署とは違い「顧客がミスミGを選ぶ必然性のない分野」(木戸氏)だった。ゆえに何か施策を模索する思考の癖が、知らない間に染みついた。
社内にいながら“よそ者”の視点がある。だからこそ、大野社長は自分を選んだのではないか。木戸氏はそう考え、抜擢に応じた。具体的な指示や方向性は何も示されないまま、約3カ月後に事業プランを発表することだけが決まった。
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