「まちを壊したのは許せないが、壊した後、こういう風にまちを再建するという青写真も一切ない。まともなやり方ではない」
40年以上にわたって東つつじヶ丘2丁目で暮らしていた丸山重威さん(84歳)は、工事現場と化したまちを見て、憤懣やる方ない様子だった。
陥没事故が起きた東つつじヶ丘2丁目では住宅の多くが取り壊され、大型の機械がうなり声を上げている。街のあちこちが通行止めとなり、地域を流れる入間川の上には、工事用のセメントスラリーを運搬するためのパイプラインが敷き詰められている。公園は工事用ヤードとして占有され、子どもの遊び場はない。
事業者の都合で二転三転した生活
丸山さん自身も陥没事故によって翻弄された1人だ。
陥没事故の後、事業者である東日本高速道路(NEXCO東日本)は、シールドトンネルの真上部分に当たる幅16メートル、長さ220メートルのエリアに限って地盤補修工事を実施するとした。しかし、丸山さん宅はそこからわずかだが外れているという理由で地盤補修の対象とはならず、「土地建物の買い取りはできない」と言われた。
ところが、2022年2月に東京地裁が下した一部工事の差し止め命令では丸山さん宅について、「有効な対策が採られないまま工事が再開されれば、居住場所に地盤の緩みを生じさせ、地表面に陥没を生じさせたりする具体的なおそれがある」と判断された。つまり、丸山さん宅は「危険」だとされたのである。老後の資金確保のためにと考えていた、住宅を活用したリバースモーゲージが銀行によって断られる事態にもなった。
そんな事態が急転したのは24年に入ってのこと。NEXCO東日本から「資材置き場」として買い取りを打診されたのである。「それにしても、80代になって、一から家を探すのは大変だった。昨年の今頃から半年かけて作業をしたが、本当に疲れた」(丸山さん)。



















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