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セイコーエプソン38年ぶりの文系出身社長が吐露、「プリンター需要はまだ拡大する」。印刷需要の減少やアメリカ関税の影響をどう乗り越えるのか

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吉田潤吉/よしだ・じゅんきち 1964年生まれ。1988年慶應義塾大学経済学部卒業、セイコーエプソン入社。2012年プリンター事業戦略推進部長、2020年執行役員、2021年プリンティングソリューションズ事業本部長、2024年取締役。2025年4月より代表取締役社長(現職)(写真:尾形文繁)
インクジェット技術や大容量インクタンク搭載プリンターなどの製品群を武器とするセイコーエプソン。印刷需要の減少やアメリカ関税など外部環境の影響をどのように乗り越えようとしているのか。4月1日に社長に就任した吉田潤吉氏に、プリンター事業の未来や今後の成長戦略を聞いた。

 

――プリンター市場は紙への出力機会が減り、厳しい環境にあるという見方があります。

一概にそうとは言えない。確かに紙への出力機会は減っているが、効率よく印刷したい、用途に応じて使いたいというニーズはむしろ増えている。

例えば、自治体の災害対策本部では紙での出力は必須となる。当社のインクジェット複合機は、災害時など電源確保が難しい状況でもバッテリー電源で使える特徴がある。これは(印字に熱を用いる)レーザー方式では実現できない。卓上のプリンターは電球1個分の電力で動くほど省エネだ。

新興国では「エコタンク」(大容量インクタンク)搭載プリンターの市場を形成してきた。(新興国では)経済成長に伴い、ビジネス用途での紙需要がむしろ増加している。電子化も進展しているが、それ以上に経済規模が伸びている。インクジェット印刷の利便性や経済効果への認識が広がり、需要の拡大を実感している。

インクジェット方式の用途が広がる

――日本のオフィスでは依然としてトナー式の複合機が主流です。エプソンのインクジェット複合機はやはり、新興国で拡販しているのでしょうか。

海外、特に新興国では比較的先入観なく、いろんな技術を使っていただける傾向にある。その中で、当社の「エコタンク」搭載インクジェット複合機を利用するケースがかなりある。小型のものから高速機まで幅広いラインナップを揃えており、店舗からバックオフィスまで連携して導入することも可能だ。

インクジェット方式はトナー式と比べ、消耗品の交換頻度が少なく、コスト管理や保守の手間も軽減できる。非常用バッテリーで稼働する特性も高く評価されており、自治体や医療機関など、電力供給が不安定な現場では特にニーズがある。

――インクジェットヘッドの外販事業にも力を入れています。完成品領域で競合となる企業に、自社のコア技術を提供することにどんな意図があるのでしょうか。

まず、プリンター完成品の市場そのものが非常に大きい。当社の完成品だけでは、全ての需要をカバーすることはできない。そこではパートナーシップや協業は不可欠だ。

またヘッドの外販を通じて用途の拡大にも取り組んでいる。インクジェット技術を用いて回路基板を製造するエレファンテック社や、次世代の技術として注目されるペロブスカイト太陽電池の製造装置を手がける韓国のゴサンテック社への出資もその一環である。

もちろん、顧客の情報管理は徹底し、完成品事業とは切り離して運用している。技術を通じて市場全体を広げていくという点では、私たちはパートナーと志を同じくすることができると考えている。

――成長戦略の一環として、プリンターの紙以外への展開も掲げています。

デジタル化が進むことで、インクジェットでの出力可能性は増えている。われわれは「商業・産業」という言葉で事業領域を表しているが、洋服の布地や店舗装飾など紙以外の媒体への加飾にインクジェット技術が使われている。

当社独自のマイクロピエゾ技術はさまざまな色材や溶剤を吐出できるため、あらゆるものに加飾できる可能性を秘めている。紙はもちろん重要な市場。ただ紙だけに頼るのではなく、産業・商業応用を広げていくというのが当社の戦略の一つだ。

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