〈自己株買いの産物〉キヤノン「本当の時価総額」は5兆円台でなく3兆円台? 日本の常識は世界の非常識か

近年、自己株買いを加速させている一社がキヤノンだ。2024年は2回にわたり総額2000億円を投じて実施。2025年に入ってからも2~3月と4~5月にそれぞれ約1000億円規模を買い付けた。
自己株買いの理由は、資本効率の向上や株主還元の充実、手元資金の活用などときわめて一般的。ただ、キヤノンの自己株買いには特徴がある。取得した自己株を消却せずに保有し続けていることだ。
保有する自己株は積もり積もって、発行済み株式数に対する比率は5月時点で32.4%に達した。つまり、発行済み株式のうち3割以上が市場に出回っていない「金庫株」の状態にある。キヤノンは金庫株となっている自己株を市場に放出する意向はないとしている。
富士フイルムHDと拮抗する
発行済み株式数に株価を乗じたキヤノンの時価総額は、6月20日時点で約5.6兆円。複合機やカメラでキヤノンと競合関係にあるのは、富士フイルムホールディングス(HD)だ。時価総額は約3.8兆円でキヤノンが1.8兆円上回っている。
だが、市場で取引されていない自己株を除いた株数で時価総額を計算すると様相が変わる。キヤノンは約3.79兆円、富士フイルムHDは約3.71兆円となり、両社は拮抗する。キヤノンの自己株比率が高いのに対し、富士フイルムHDは3.1%と低いのが理由だ。

自己株は市場に流通しないだけでなく、配当や議決権といった株主の権利が付与されていない。経済的な実体に欠くこの株式を、企業価値を測る指標として、広く使われている時価総額の算出に含めるべきなのか。
日本において時価総額は「発行済み株式数(自己株を含む)×株価」で算出するのが一般的だ。日本経済新聞やYahoo!ファイナンス、会社四季報オンラインをはじめ、多くの情報ベンダーやメディアがこの計算をしている。
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