アメリカの民主主義が「機能不全」に陥った理由 極右化する保守と、大衆を軽んじるリベラル

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中野:Warfare State(戦争国家)がWelfare State(福祉国家)になっていくという流れですよね。実際には、左派がそれを知ったところで、ますます不愉快になるだけで、反省はしないと思いますね(笑)。

施さん、ありがとうございました。では、佐藤さんはどんなご意見でしょうか?

佐藤 健志(さとう けんじ)/評論家・作家。1966年、東京都生まれ。東京大学教養学部卒業。1990年代以来、多角的な視点に基づく独自の評論活動を展開。『感染の令和』(KKベストセラーズ)、『平和主義は貧困への道』(同)、『新訳 フランス革命の省察』(PHP研究所)をはじめ、著書・訳書多数。さらに2019年より、経営科学出版でオンライン講座を配信。『痛快! 戦後ニッポンの正体』全3巻、『佐藤健志のニッポン崩壊の研究』全3巻を経て、現在『2025ニッポン終焉 新自由主義と主権喪失からの脱却』全3巻が制作されている(写真:佐藤健志) 

佐藤:コンサバティズム、保守主義とは、読んで字のごとく「社会や国家にとって大事なものを保って守る」理念です。ゆえに時代や状況の変化に伴い、「これは保って守るべきだ」と見なされるものが変化すれば、コンサバティブ、保守派の内実も変わる。

ニューライトが台頭した1950年代の前半から半ばは、長らく地域覇権で満足していたアメリカが、世界的な覇権を本格的に志向しはじめた時期です。国としての立ち位置の変化が、保守派の刷新につながった。そのきっかけは冷戦の深刻化ですから、冷戦勝利の立役者となるレーガン政権の登場で、ニューライトの勢いが頂点に達したのも必然です。

ところが冷戦終結後、一極支配が成立したことで、アメリカの立ち位置はまた変わりました。自国の理想を世界規模で実践することが可能になったのですが、これがかえって手詰まりの状況を引き起こしてしまう。

保守すべきは国の理想か現実か

その根底にひそむのは、国のあり方をめぐる理想と現実のズレの拡大です。一方では「多をもって一となす」という建国のモットーの通り、世界中から人々が集まって、自由と平等を謳歌しつつ、平和で繁栄する社会をつくるという理想がある。ただし現実のアメリカは白人中心の国家であり、当初は奴隷制まで容認されていた。

近年のアメリカの保守派は、非白人人口の増加により、遠からず白人が少数派になってしまうと危惧しています。彼らにしてみれば、むろん切実な問題でしょう。しかし「多をもって一となす」の発想に従うなら、それでも全然構わないという話になる。建国の理想を保守することと、長年の現実を保守することが両立しなくなっているのです。

国のアイデンティティが大きく揺らいでいるのですから、保守派のあり方が激動するのも自明の理。さらにSNSの発達によって、それまで「異端」「キワモノ」と片付けられていた過激な言論が脚光を浴びやすくなった。

こんな混乱した状況の中で、もう一回、アメリカの理想と現実に接点を持たせられないかという思いが、リンドにこの本を書かせたのでないかと見ています。

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