アメリカの民主主義が「機能不全」に陥った理由 極右化する保守と、大衆を軽んじるリベラル

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なぜアメリカの保守派は暴走してしまったのか(写真:HAPPY SMILE/PIXTA)
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グローバル化の問題点は「新しい階級闘争」を生み出した。新自由主義改革がもたらした経済格差の拡大、政治的な国民の分断、ポリティカル・コレクトネスやキャンセルカルチャーの暴走である。
アメリカの政治学者マイケル・リンド氏は、このたび邦訳された『新しい階級闘争:大都市エリートから民主主義を守る』で、各国でグローバル企業や投資家(オーバークラス)と庶民層の間で政治的影響力の差が生じてしまったことがその要因だと指摘している。
中野剛志(評論家)、佐藤健志(評論家・作家)、施光恒(九州大学大学院教授)、古川雄嗣(北海道教育大学旭川校准教授)など、気鋭の論客の各氏が読み解き、議論する「令和の新教養」シリーズに、今回は井上弘貴氏(神戸大学大学院教授)も参加し、同書をめぐって徹底討議する。今回はその前編をお届けする。

アメリカの保守派が暴走してしまった訳

中野:アメリカの政治思想家マイケル・リンドは、一般的にコンサバティブ(保守派)とされていますが、実際に彼の著作を読むと、社会主義に好意的な人物も引用しています。

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もともと、アメリカにおけるコンサバティブは、多様で複雑であり、その特性を把握することは容易ではありません。一方で、この多様性がアメリカという国の特殊性につながっている可能性もあります。

今回の議論では、リンドについて、アメリカのコンサバティブについて、そして世界情勢や社会情勢についても触れられたらと思います。まずは井上先生にリンドやコンサバティブに関する見解をお伺いできますでしょうか。

井上:はい。まずは、私の専門であります、アメリカの政治思想のことを最初にお話ししてから、もう少し一般的なお話をさせていただこうと思っています。

アメリカは第2次大戦後、一般にニューライトと呼ばれる人たちが、その他のいろいろな右の人たちを周辺に追いやる形で主流になりました。ウィリアム・バックリー・ジュニアといった『ナショナル・レビュー』誌に集まっていった人たちが、勢力争いに打ち勝ったわけです。

それ以外の人たちももちろんいましたが、そこには例えばKKKに由来するような極右の人たちも含まれていました。

今でこそ極右や陰謀論はメインテーマになっていますが、アメリカにおいては隠れた長い歴史があり、戦後にもずっと存在していました。そうした極右や陰謀論者たちが表に出てこないように、ゲートキーパーをしていたのが、バックリー・ジュニアたちだったと思います。

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