アメリカの保守派が暴走してしまった訳
中野:アメリカの政治思想家マイケル・リンドは、一般的にコンサバティブ(保守派)とされていますが、実際に彼の著作を読むと、社会主義に好意的な人物も引用しています。
もともと、アメリカにおけるコンサバティブは、多様で複雑であり、その特性を把握することは容易ではありません。一方で、この多様性がアメリカという国の特殊性につながっている可能性もあります。
今回の議論では、リンドについて、アメリカのコンサバティブについて、そして世界情勢や社会情勢についても触れられたらと思います。まずは井上先生にリンドやコンサバティブに関する見解をお伺いできますでしょうか。
井上:はい。まずは、私の専門であります、アメリカの政治思想のことを最初にお話ししてから、もう少し一般的なお話をさせていただこうと思っています。
アメリカは第2次大戦後、一般にニューライトと呼ばれる人たちが、その他のいろいろな右の人たちを周辺に追いやる形で主流になりました。ウィリアム・バックリー・ジュニアといった『ナショナル・レビュー』誌に集まっていった人たちが、勢力争いに打ち勝ったわけです。
それ以外の人たちももちろんいましたが、そこには例えばKKKに由来するような極右の人たちも含まれていました。
今でこそ極右や陰謀論はメインテーマになっていますが、アメリカにおいては隠れた長い歴史があり、戦後にもずっと存在していました。そうした極右や陰謀論者たちが表に出てこないように、ゲートキーパーをしていたのが、バックリー・ジュニアたちだったと思います。