アメリカの民主主義が「機能不全」に陥った理由 極右化する保守と、大衆を軽んじるリベラル

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施 光恒(せ てるひさ)/政治学者、九州大学大学院比較社会文化研究院教授。1971年福岡県生まれ。英国シェフィールド大学大学院政治学研究科哲学修士(M.Phil)課程修了。慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程修了。博士(法学)。著書に『リベラリズムの再生』(慶應義塾大学出版会)、『英語化は愚民化 日本の国力が地に落ちる』 (集英社新書)、『本当に日本人は流されやすいのか』(角川新書)など(写真:施 光恒)

:まず、この本の翻訳を出版社に持ち掛けるきっかけとなったのは、イギリスのジャーナリストである、デイヴィッド・グッドハートです。

彼は『The Road to Somewhere』という本の中で、グローバル化の進行によって、大都市の専門職エリートである「エニウェア族(Anywheres)」と、地方で暮らす庶民である「サムウェア族(Somewheres)」が対立する様子を描いています。

エニウェア族は、大都市に暮らし、高学歴・高収入であり、リベラルで新自由主義を支持する立場の人々。一方、サムウェア族は、地方で暮らし、学歴や収入は平均かそれ以下であり、地域共同体の一員としてのアイデンティティを重んじる人々です。言ってみれば、地球市民エリート対マイルドヤンキーのような対立ですね。

グローバル化と民主主義は相性が悪い

グッドハートが、リンドのこの本を大傑作だと賞賛する書評を書いていました。で、この本を取り寄せ、読んでみたら、大変おもしろかった。私自身も現在の研究テーマの一つは、グローバル化の中で自由民主主義が成り立つかどうかということです。

グッドハートもリンドも、グローバル化が進むにつれて、国民世論が真っ二つに分かれてしまうと指摘しています。つまり、グローバル化は民主主義と相性が悪いという分析です。

この傾向は、レーガンの前のカーターのころから徐々に始まり、新自由主義的な上からの革命で決定的になったと言われています。グローバルエリートが庶民を裏切り、福祉に共感しなくなり、平等や民主主義が成り立つ条件を壊していった。

リンドは、民主主義の必要条件は中間共同体が多数存在し、それらが庶民の声を集約し、政治に反映させることだと述べています。しかし、新自由主義に基づくグローバル化の中で、中間共同体は壊され、庶民の声が反映されなくなってしまった。反映されるのはグローバルな企業の幹部や投資家の声ばかりです。

彼らはグローバル化の中で国境を越えた資本の移動が自由化されたことに伴い、「自分たちの言うことを聞かないんだったら、この国から、もっと聞き分けの良い他国へ資本を移動させてしまいますよ」と、各国政府をいわば脅すことができるようになった。各国政府に対して圧倒的な影響力を持てるようになったんです。

グローバル化以降は、「グローバルな企業の幹部や投資家>各国の一般国民(各国の庶民)」という政治的影響力の格差の図式が出来上がったんですね。この図式でいろんなことが見えるようになるというのが、この本のおもしろいところです。

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