施:まさにそうなんですよ。蓋を開けてみたら、そうだったんですね。
中野:ええ、そうなんですよね。今までの議論から、私が感じたことは2つあります。
1つ目は、リンドの処方箋の実現可能性を判断する際には、もう少し実証的な研究があってもいいように思ったということです。とくに、多元主義の成立に関する歴史学、歴史社会学的な研究がもう少し必要かな。例えば、歴史社会学者のシーダ・スコッチポルの研究は、アメリカにおける戦後の中間団体が、戦時中に国民を動員する際の互助組織として国家主導でつくられていたという分析を示しています。
だとすると、中央権力と中間団体が拮抗することで多元主義が生み出されるという先入観のほうを捨てて、リンドの肩を持ってもいいかもしれません。
「正しい分析」の価値は揺らがない
もう1つは、リンドの歯切れの悪さについて。確かに、そうかもしれない。しかし、もう1つの可能性として、分析対象の現実の歯切れが悪い場合は、それを忠実に描写したら、文章の歯切れが悪くなるに決まっているのではないですか。
その意味でいうと、確かにリンドは、ポピュリズムは問題だが、その生みの親はリベラルのエリート側であって。そのエリートたちが、人々が陰謀論に引き込まれて、トランプを支持するまで追い込まれるようになった背景について、何の配慮もせず、攻撃をしている。で、ポピュリズム側も攻撃だけをしている。要するにどっちもどっちである。
加えて、分析だけして、処方箋がないことは意味がないことなのでしょうか。そもそも、現実問題の解決策は、個別具体的な問題解決を実践する政治家や実務家がやるべきものです。
リンドは学者であり、書物に書ける処方箋の限界を理解している。しかも、正確な分析が示されれば、それが次の処方箋や解決策の第一歩となるわけで、その意味では、分析もまた実践において大事なことだと思います。
あるいは、こうとも解釈できる。保守派はたいてい取り返しがつかなくなるから壊すなという立場の人です。ところが、アメリカは多元主義を壊すべきじゃなかったのに壊しちゃった。
だとすると、リンドはもうどうにもならないと絶望しているのかもしれません。ただ、世の中、治癒の見込みのない末期がんを診断しなければならないお医者さんもいるわけで、末期がんで助からないから何も言わないというわけにはいきません。
どれが正しいのかわかりませんが、私は割と好意的に読んだという感想です。
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