アメリカの民主主義が「機能不全」に陥った理由 極右化する保守と、大衆を軽んじるリベラル

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井上弘貴(いのうえ ひろたか)/神戸大学大学院国際文化学研究科教授。1973年、東京都生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士後期課程満期退学。博士(政治学)。自治体非正規職員、早稲田大学政治経済学術院助教、テネシー大学歴史学部訪問研究員などを経て、現職。専門は、政治理論、公共政策論、アメリカ政治思想史。著書に『アメリカ保守主義の思想史』(青土社)、『ジョン・デューイとアメリカの責任』(木鐸社)、訳書に『ユニオンジャックに黒はない――人種と国民をめぐる文化政治』(共訳、月曜社)などがある(写真:本人提供)

バックリー・ジュニアにも、白人至上主義的な部分がゼロではないですが、ガルブレイスといった、リベラルともお付き合いができた。そうしたエスタブリッシュメントとしての保守をアメリカで築き上げていって、それが最終的に1980年のレーガンの勝利を後押しした側面はあると、はっきり言えると思います。

冷戦が最高潮に達する時期に、アメリカの保守が、リベラルに対してある種の勝利を一時的に収めたんです。その中で、レーガンとゴルバチョフとの交渉の末、冷戦が終わったわけですが、そのあたりから少しずつアメリカの保守の中で綻びが生じ始めます。

冷戦終結後も、アメリカの対外的介入は国際主義として続きました。しかし、2000年代に入り、「9.11」以降のアフガニスタン、イラクに対する侵攻など、冷戦後の国際主義が結果的には暴走してしまいました。

当時、こんな戦争はおかしいと、アメリカの伝統的な孤立主義にも由来する保守の傍流の人たち、具体的にはリバタリアンや南部にルーツを持つペイリオコンが、反戦の立場を左派と一緒になって展開しました。しかし、まだブッシュの頃は彼らの力は弱かった。

そのあと2000年代末にオバマが出てきて、リベラルがさらに多様性を推進していく。しかし、そうした中で、ポリティカル・コレクトネスに反発を感じる人々や、白人人口の減少を危機として捉える人々が、リベラルと既存の保守に対する強い反対の結集軸を持ち始めました。

かつてない極右政治家の台頭

そうした動きを敏感に感じ取ったトランプが、いろんな理由があるけれども、くすぶっていた白人の人たちの支持を集め、2016年の大統領選勝利を後押ししました。これをきっかけに、保守の主流と傍流の力関係が一気に逆転してしまった。

4年のトランプ政権下で、保守の主流はますます力を失い、保守の傍流はますます力を得ていきました。例えば、下院には、かつてであればとても議員にはなれなかったような、マージョリー・テイラー・グリーンのような人物が影響力を振るっています。ほかにも、極右としか言いようがない議員たちが、アメリカの政策決定に大きな影響を及ぼし始めています。

リンドのようなひとたちは、近年のアメリカの分極化と言われる状況の中で、中道を模索しようとしていると言えます。彼らは、ネオコンの第一世代が大卒の専門職を指すニュークラスというコンセプトで考えていた階級論を復活させ、リンド自身はオーバークラスという言葉を使いますが、大卒のニュークラスと高卒の労働者の人たちとの間の結びつきをもう一度取り戻そうとしています。

中野:井上先生、ありがとうございました。では、今のお話を受けて、監訳された施さんはいかがですか?

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