「参政党なんか支持する人は頭が悪い」と批判する人もいるが…非常に短絡的な考えだ! 「参政党人気」の深層にある深刻な孤独の“正体”

✎ 1〜 ✎ 54 ✎ 55 ✎ 56 ✎ 57
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小
参政党
政府や既成政党から「無視されている」「見捨てられている」という感覚を持つ人々にとって、ポピュリズム政党が居心地のよいホームになる(写真:時事)

世論調査で参政党の人気沸騰が大きなトピックになっている。共同通信社が7月5・6日両日に行った参院選の支持動向に関するトレンド調査(第2回)で、比例代表の投票先が参政党8.1%(1週間前と比べて2.3ポイント増加)となり、立憲民主党と国民民主党を抑えて野党のトップに躍り出たからだ。

ただし、参政党に関してはSNSなどでかなり強い調子で批判されており、代表の神谷宗幣氏だけでなく支持層が嘲笑の対象になることも多い。「日本人ファースト」という言葉や、国民主権や基本的人権をないがしろにしているような新憲法構想案が典型的だ。

例えば、新憲法構想案にある「国民の要件」に「日本を大切にする心を有することを基準」(第5条)とするという記述はその一端を如実に示している。そのため、「低能」「知性の劣化」などと物笑いの種にされており、「参政党の支持者は頭が悪い」という冷笑的な反応が少なくない。

ポピュリズムの先鋭化の背後にある真因

とはいえ、前回の記事「参政党人気『理解できない』人が見誤る熱狂の本質」で述べたように、単なる蔑称やレッテル貼りで片付けることは大いに問題がある。このポピュリズムの先鋭化の背後にある真因を見定めることがまず必要だ。ポピュリズム政党の躍進は、社会の崩壊の度合いを示す警笛といえる面があるからだ。

「既存の政党や政治家は、私のような人間を気にかけていない」と感じている日本人の割合が7割に上るという世論調査の結果とポピュリズムの手法の深い結び付きについてはすでに述べたが、もう1つ重要な要素がある。

加速する孤立の時代における「コミュニティの誘惑」だ。経済学者のノリーナ・ハーツは、世界的なポピュリズム拡大の動きについて、「かつてなら労働組合や伝統的な政党、教会、さらには賑やかなコミュニティーセンターや地元のカフェが提供してくれたかもしれない目的意識やコミュニティー」を、ポピュリスト政党が与えている現実をさまざまな事例から浮き彫りにした(『THE LONELY CENTURY なぜ私たちは「孤独」なのか』藤原朝子訳、ダイヤモンド社)。

同書で紹介されるフランスの極右ポピュリズム政党「国民連合」の青年組織の主要メンバーであるエリックは、「1年半前から、夕食会やパーティーに出かけるようになった。

正式には委員会だが、党員の親睦会のようなものだ。みんなとても感じがいい」「コミュニティーの一員だと感じられるからね」などと話し、一緒にポスターやチラシを配る活動がいかに大きな喜びを与えてくれるかを吐露したという。

不信感を募らせた人々の心を上手く掴んだ参政党

参政党は、コロナ禍で政府の新型コロナウイルス対策やワクチン政策などに不信感を募らせた人々の心を上手く掴み、その支持基盤を拡大させていった経緯がある。

街頭演説のYouTubeで参政党を知った30代の主婦は、コロナ騒動に違和感を持ったことがきっかけだったと言う。「党員のほとんどがマスクをせずに過ごすことが多く、パンデミックの世界にいることを忘れるような空間が本当に気持ちがよい」と感じたことや、党員に共通する特徴に「今まで政治に興味がなかった」「日本をよくしたい」という人が多いことなどを率直に語っている(利倉みな『政治に全く興味がなかった主婦が参政党の党員になったら価値観が変わった』)。

政治活動を通して初めて連帯感や共同性に触れられたことが推察できるエピソードだ。

ハーツの孤独の定義は、友達の間で孤立しているとか地域社会とつながりがないといった分かりやすい感覚だけではないと述べ、「自分の声に耳を傾けてもらえていない。あるいは他人に理解されていないという感覚も含まれる」という(前掲書)。

政府や既成政党から「無視されている」「見捨てられている」という感覚を持つ人々にとって、ポピュリズム政党が居心地のよいホームになるのだ。

「プロシューマー的な解決」

筆者は、そこにもっと積極的なアプローチを見いだす。近く発売予定の新著で詳しく取り上げるが、明らかに「プロシューマー的な解決」だからである。

プロシューマーとは、生産者(プロデューサー)と消費者(コンシューマー)を融合させた造語で、1980年代に未来学者として名を馳せたアルビン・トフラーが『第三の波』(徳岡孝夫監訳、中公文庫)で提唱した考え方だ。

トフラーは、第一の波の時代である農業革命では、人間は自分の生産した物を消費し、第二の波の時代である産業革命では、生産と消費が分離され、今日のような大規模な市場が発達したと解説する。

その次に訪れるとした第三の波とは、いわゆる情報革命のことであり、電子通信技術の進化などによって産業構造が転換し、ライフスタイルが変容することなどを論じたのだが、リモートワークなどを予見したことで知られている。

なかでも第三の波において重要とみなされているのは、モノやサービスを購入する消費者であると同時にそれらを自ら作り出す生産者でもある「プロシューマー(生産者=消費者)」の台頭である。

技術革新による医療の家庭化、心理的・社会的問題などを支援する自助運動の拡大、DIY産業の成長などの潮流を踏まえて、トフラーは、「どれを見ても、そこに消費者がはるかに密接に生産にかかわり合うパターンを認めることができる。この世界では、これまでのような生産者と消費者の区別は消え失せる」とした(同上)。

「れいわ新選組」「NHKから国民を守る党」(当時、以下N国)を嚆矢とする2019年以後の新興政党において、このような政治運動のプロシューマー(生産者=消費者)化がほとんど当たり前のようになってきている。

既成政党とは異なる政治参加のスタイル

両党が公職選挙法と政党助成法上の政党要件を満たして一躍国政政党となったこと自体かなりの衝撃を呼んだが、ともに「手作り」政党であったことやその政治参加のスタイルについては当初あまりスポットが当たらなかった。

従来の政党とは大きく異なり、一般の人々がブレーンやボランティア、あるいは立候補者としてかかわる距離が驚くほど近かったのである。れいわ新選組が「大きな組織や企業に頼らず、ボランティアの皆さまと政権交代を目指します」と党の公式ウェブサイトに書いていることは非常に重要だ。名実ともにボランティアが支持母体兼実働部隊になっており、生産者(プロデューサー)としての側面が強い。

同党のボランティア本部はボランティアの交流や学びの場を提供しており、地域ごとに定期的にイベントが行われ、無数のコミュニティが活動している。N国は、YouTubeを徹底的に活用し、支持層を広げていった特異な政党だが、ここにも金銭的な支援やボランティアを買って出る人々がインターネットを介して押し寄せた。

どちらの政党もプロシューマー(生産者=消費者)的な行動が推進力になっている。トフラーが論じた自助運動の拡大にも似て、人々は新進の政治運動というフィールドにおいて、生産者的な立ち位置を築こうとしたのだ。これは政治参画においては、主体性やコントロール、つまりは自律性の感覚を呼び覚ますことができる。

参政党は、キャッチフレーズにある通り「投票したい政党がないなら、自分たちでゼロからつくる。」であり、「DIY政党」を自称している。党名の英語の公式表記は「Party of Do It Yourself」である(党のYouTubeチャンネルはもともと「政党DIY」と名付けられていた)。運営においても、支部単位での活動を重視し、イベントや勉強会、選挙や候補者選び、政府への質問などを全国287の支部単位で党員が作る仕組みになっている。

日本記者クラブ主催の党首討論会で、参政党の一番の存在意義とは何かを問われた神谷氏は、「参加型の政党にしたということだ」と断言したほか、7月4日の街頭演説でも「手弁当で一生懸命、全国で手作りでやってきたのがわれわれ参政党」と強調している。

前出の女性は、新入党員歓迎会の席上、一人が立候補を表明し、党員による党内選挙を経て公認候補になる様子などを間近で見て、「ガッツリと国政に参加をしている実感」がわいたと述懐。「私は、正直ただ学ぶだけのオンラインサロン感覚で入りました。しかし、LINEなどの内容を読むごとに、お手伝いをしようと思いチラシ配りや、街頭演説のお手伝いも手弁当で行くようになりました」と述べている(前掲書)。

自尊心と他者との一体感に訴求する

地域単位で自由度の高い独自の活動を展開させながら、オンラインサロン的な緩いかかわり方から、公認候補を目指す濃いかかわり方まで、敷居を低くしつつ多様な参加形態を可能にしていることは、プロシューマー的な志向を拡張するうえで賢い戦略とみるべきだろう。

『人生は心の持ち方で変えられる?』
『人生は心の持ち方で変えられる? 〈自己啓発文化〉の深層を解く』(光文社新書)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

また、れいわ新選組などの先行例からその手法などを学習した形跡がうかがえる。

加えて、選挙運動はそれぞれの役割と活躍の場が与えられるだけでなく、お祭りに似た高揚を伴うことから、メンバー間の結束を確かなものにする力がある。

ポピュリズム政党は、自尊心と他者との一体感に訴求することで支持層をより盤石なものにしようと試みる。むろん、それと政策の妥当性はまったく別の話である。

中間層の消滅に象徴される「失われた30年」の間に、分断と孤立が着実に進行していった。ポピュリズム政党たちはそれを半ば養分にして、思わぬ方向に触手を伸ばしつつ、既成政党を掘り崩して成長していくのだ。その先に何が待っているかはわたしたち次第であるとしか言いようがない。

【もっと読む】「参政党の支持者は頭が悪い」と言う人もいるが…支持されるのには理由がある!参政党人気「理解できない」人が見誤る熱狂の"本質"では、参政党が参院選の台風の目になりつつある背景について、陰謀論やコミュニティに詳しい批評家の真鍋厚氏が詳細に解説している。
真鍋 厚 評論家、著述家

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

まなべ・あつし / Atsushi Manabe

1979年、奈良県生まれ。大阪芸術大学大学院修士課程修了。出版社に勤める傍ら評論活動を展開。 単著に『テロリスト・ワールド』(現代書館)、『不寛容という不安』(彩流社)。(写真撮影:長谷部ナオキチ)

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事