理由が必要な場合、理不尽がまかり通る場合

チャルディーニの名著に思う理性と感情

カモは何も教わらなくても、生まれて初めて見た狐を天敵と認識する。これは、純粋に本能のみで可能である。一方、カラスは、親や群れの仲間の「ギャアギャア」という鳴き声によって、何が天敵であるかを学習する。学習しなければ、狐が敵だとはわからない。一見、不便で危険であるが、一度仲間の鳴き声によって教われば、直ちにそれと認識し、生涯覚えていられる。それだけではなく、別の仲間に伝達することもできる。これが本能と学習の組み合わせのメリットである。

鳥の中には、人間に捕獲される危険があることをなかなか覚えないため、数を減らした種類も多い。そうした鳥が、もしカラスのような学習方式をとっていれば、より適応できたであろう。

さて、鳥の中で、カラスの知能が突出しているのと同様、哺乳類の中では、人類の知能が突出している。それによって、感情だけでなく、知性も用いた判断ができる。ただそれは、人間の判断が本能に頼らないということではない。本能の働き方が、知性による適合を、一定範囲で許容するようにできているということである。

本能から逃れられない一方、知性を磨いてきた

態度は感情に訴え、理由は知性に訴える。人間行動の構造は、感情を優先する大きな枠組みの中で、一部に知性の介入を許している。冒頭の例のとおり、理由が無意味であっても、それを言う態度が正当なら許容する性質も、この仕組みによって生じる(感情と理性の関係は以前に「『理屈を言うな!』と叱責する上司への対処法」でも取り上げた)。

知性は、自然を理解しさまざまに利用すること、それを世代間で伝達し進歩させることで、人間に大きな成功をもたらした。しかしその成功は、感情を優位とする支配の枠組みを改変するものではない。文明も本能が与えた枠組みの中での成果である。

群れの地位により物事を決するより、事実の認識や論理を用いるほうが、文明発展につながることは明らかである。しかし、科学技術は短時間に急成長させることができても、われわれ自身は一足飛びに変化できない。理屈ではなく、態度が問題だと感じる心理から逃れられないことも、その1つである。

とはいえ、理由を追求しないのでは進歩がない。望ましいのは、オマキザルの実験(「投資や消費で陥りやすい『損失回避心理』の罠」参照のこと)でローリー・サントス教授が述べたとおり、われわれの動物としての限界を理解したうえで、それを上回る工夫をすることである。

理由なく横暴なことを言う者に対しては、上位者がそれをたしなめればよい。それが機能しない場合、下位者からの対策は難しいが、反論ではなく、理解と共感を示すことで信頼を築けば、一定の対応余地はある。

さて冒頭のチャルディーニの著作から、数ページのみを参考に、本能と学習の若干の考察を試みた。この本は、興味深い題材を満載した良書であり、まだお読みでない方はぜひご一読をお勧めする。

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