フジテレビの番組「関ジャニ∞クロニクル」の、9月22日(土)の放送内容は「錯視研究の第一人者を取材!見て楽しい!驚きの錯視に大興奮!」というものだった。上図のように、丸い車庫の屋根が、鏡に映して反対側から見るとギザギザになっている写真が紹介された。
どうしてこんなことが起こるのだろう。これを作ったのは、国際的な錯視コンテスト“The Best Illusion of the Year Contest” で優勝2回・準優勝2回の常連ファイナリスト、明治大学先端数理科学インスティテュート所長の杉原厚吉(すぎはら・こうきち)特任教授(東京大学名誉教授)である。ぜひ、こちらで動画を再生して、見ていただきたい。今年もすでに、ベスト10入りを決め、3度目の優勝なるかが注目される。
心理学と立体図形の数理が引き起こす錯覚
杉原教授は、平面画像からコンピュータに立体図形を認識させる技術を研究した。それを用い、「エッシャーの無限階段」や、「ペンローズの四角形」などをコンピュータに認識させたところ、「そのような立体は存在する」ことを発見した。「不可能立体」はここに始まる。実際にそれらは作製された。
ペンローズ四角形などは、「絵にかいた錯視」として知られていた。立体でこれを作る試みは以前にもなされているが、見え方が不自然である、わずかでも視点が動くと錯視が保てない、などの弱点があった。
杉原教授の作品は、数理科学的に正確に作られており、自然かつ安定的に錯視を作り出す。もちろん、安定とはいっても、視点は一定の範囲内に限られており、どこから見ても正真正銘のエッシャー階段が作れるわけではない。
さて、同じ射影が映し出される立体は無数にある。その中には、別な角度からの射影がまったく違う形を想像させる立体もある。これを利用して、見る角度によって違う形状に見える「変身立体」を作ることができる。
人間の脳は、射影から可能な形状のうち、実際にありそうなものを無意識に選んで認識する。ゲシュタルト心理学の知見と、立体図形の数理を組み合わせると、さまざまな錯視を引き起こす立体を作ることができる。
教授はこの原理を解明し、さらにその立体の展開図の作図法を編み出した。その後、3Dプリンターも使って、さらにさまざまな立体を作り出した。鏡で別方向から見ると角柱に見える円柱、さらには交差しているようにも分離しているようにも見える立体などが誕生した。不可能立体の錯視は、万有引力やユークリッド幾何、トポロジー不変など、不朽のはずの法則を次々と破って、魔術さながらである。これを「杉原錯視」という。
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