上司に意見を述べ、「それは、理屈だ!」と叱責されたことがある。
そのときは損益を論じていたので、理屈を用いざるをえなかった。無茶を言うな、と上司を批判したくなったが、そう片付けてよいか。実は事は簡単ではなく、考察を要する。
こう断じた上司は、当然、理屈を重視していない。この人は、結論に納得できぬ、説得などしてもダメだ、と宣言している。ここでは、上司の言い分が正当か、あるいはパワハラか、などは別にして、現実にこのような態度をとる人が多いこと、さらに、誰しも理屈では納得しないときがあることを、事実として認め、対応を探ることにしたい。ではどうするのがよいか。
その前に、「必殺の起承転結話法」と名付けられている、部下の苦情への対応術を紹介したい。部下が思い詰めた表情で面談を求め、綿々と苦情を述べたとしよう。たとえばこうである。
正論よりも「共感のあるゼロ回答」が好まれる
「同僚のAさんは本当に許せません。彼女がいるだけで不愉快です。あんな人と一緒では仕事は無理です。私の重要な仕事が阻害されては困るので、早くAさんを辞めさせてください」
こう言ってくる人に対して、「Aさんも必要な人材である。なぜなら……」とか、「物事は客観的に判断する必要がある。Aさんの言い分も聞き、よく考えて解決策を考えよう」といった、いわば正論で説得しても、効果はない。みるみる険悪な雰囲気になるだけである。
では、起承転結話法を用いてみよう。この話法はモノローグである。
起:「なるほど、それはよくわかる」と入る。
承:「俺も、できればそうしたい」と踏み込む。この後、深く悩んだ表情で20秒の間(ま)を取る。一対一の会話で20秒は長い。この間が、実はいちばん肝心である。
転:「だが、どうしても、そうはいかないんだ」と向きを変える。
結:「ここはひとつ、現状で我慢してくれ」と締める。
これは何であろうか。内容はゼロ回答で、しかも何の理由も示していない。にもかかわらず、驚くことに、この話法に説得力はあって、効果は先述の正論に勝る。なぜか。
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