「錯視」世界一!杉原厚吉教授の「不可能立体」

種明かしされても消えない魔術のワケ

代表作の1つは、坂道を球が転がり「上る」反重力滑り台である。「四方向反重力滑り台」(動画付き)について、“The Best Illusion of the Year Contest”の解説を紹介したい(以下、筆者訳)。

「この動画では、木の球が、磁石に引かれるように坂を転がり上ってゆく。玉の動きは重力に反し、ありえないと思える。動画はCGではなく、実写である。坂の傾きが実際とは逆に感じられるので、下る動きが、上る動きと誤認されて、こんなことが起きる。この錯視の特筆すべき点は、平面画像ではなく、3次元立体の、現実の運動により生じていることである」

この解説からわかるように、杉原錯視は立体図形の数理的性質を利用して錯覚を招く。この点で、人の認知特性のみを原理とする従来の錯視とは異なる。この両者の違いは一考に値する。

人間は「直角」「円」「対称形」を好む

まず、人の認知特性のみを利用した古典的錯視を少し考察しよう。原理が理解しやすい「クレーター錯視」を取り上げる。

左の写真で、壁を横に走る4本の線は、凹んだ溝に見える。一方、右の写真では、4本の畝が盛り上がって見える。しかし、この図は、左右とも同じもので、上下に反転しているだけである。逆さにしてみれば錯視とわかる。

クレーター錯視:左は正像、右が倒立像

脳は両眼視差を除きほぼ2次元の視覚情報で空間と立体を認識する。この際、奥行き1次元分の情報不足を補うため、周辺情報を用いた推測を行う。その1つが、陰影の利用である。太陽光は上方から当たる。それを前提にわれわれは、影が下方にあるものは盛り上がっていて、その逆のものはへこんでいると認識する。不足情報を推測で補うものであるから、時に誤るのはやむをえない。もし光が下方から当たっていれば、凹凸を誤認する。このような推測に関する脳の「癖」を知れば、錯覚を招くことができる。

杉原教授によると、人間の認知特性に、「直角」「円」「対称形」を強く好むことがある。人の脳は「直角が大好き」で、直角でない角度も、直角を斜めから見ていると誤認する傾向がある。

杉原錯視の「止まり木と知恵の輪」を見てみよう。十字の柱は、デカルト座標軸のように互いに直交しているように見える。だが、交差している赤い円形(この枠にはトリックはない)との位置関係からして、本当に直交していることはありえない。

止まり木と知恵の輪

直交していない物を、「直角が大好き」なわれわれの脳は、直角を斜めから見ているのだ、と思いたがる。この柱の正体は、大きくゆがんでいて、水平に見える柱は、垂直な柱の前後で屈折して後方に伸びており、直角になっていない。

次ページ「錯視」を招く脳の構造
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