理由が必要な場合、理不尽がまかり通る場合

チャルディーニの名著に思う理性と感情

一般に、弱い立場から、強い立場の人にものを頼む場合に、相手を納得させることが必要で、そのために理由を説明することが多い。逆に自分が強い立場にあれば、理由など言わずとも、問答無用に指図すれば足りる。この構図から、われわれの認知は、理由を言って何事かを要請する者は、自らの心理学的地位を下げ「下から目線」でものを言っていると感じる。逆に理由を言わない者は、「上から目線」と認識する。

コピー行列では、先に並んでいる者が優位の立場にあるから、その人に頼むには、下から目線が適切である。第1グループは、理由を言うことで、自分の心理学的地位を下げて成功する。理由を言わない第2グループは、その謙虚さが感じられないので、入れてもらえる確率が下がる。ここで重要なのは、相手方の評価は、理由の正当性ではなく、態度に基づいていることである。内容は無意味でも、理由を言う形をとっていれば、十分に有効であることが、この実験からわかる。

さて、この実験は、見ず知らずの他人を相手にしたものであるが、職場内など一定の関係のある者の間でも、同じ原理が働く。

部下が上司を説得する場合は、理由が必要である。逆の場合は、理由は必須でない。よって、トップダウンの組織は、理由を論じる必要が相対的に少ない。その分、迅速な行動ができるメリットがある。一方、ボトムアップの組織は理由を論じるので、判断の正当性や適切性が吟味されやすい。それぞれ一長一短がある。

人間心理から「謙虚なほうが損をする」こともある

ところが、もう少し考えていくと、心配なことがある。

一部の「理系タイプ」には、態度が非常に謙虚なため、実力があるのに人の風下に立たされている人がいる。その理由を考えると、彼らは相手を動かすのに、態度ではなく事実や論理をもってすることが原因である可能性がある。これは、心理学的地位を下げる方向に作用する。

地位に頼らず、事実や論理で人を動かすことを心がければ、能力は高く物腰は低い、誠に有為な人物像ができるのだが、それにふさわしい扱いを受けられる保証がないのは残念である。

また、その逆もあって困った問題を生じる。コピー行列では、理由を示さない傲岸な態度は有効ではなかった。だが、別な構造の下では、それが有利に作用することがある。

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