――杉原錯視は、どうやって不思議な現象を作り出しているのですか?
数理科学を応用して、「ありえない」立体を作っています。立体を片目で見るか、カメラで撮れば、平面画像が得られます。平面画像の基となる立体は、数理的には無数に存在しますが、人間はその中の1つの形に決めて認識します。その際には、3方向の平行線だけから構成された立体を「直角立体」であると誤認しやすいなどの特性があります。それを利用し、人間の脳が形を誤認するように計算した立体を作るのです。
――なぜ、脳はさまざまな角度を、直角だと認識したがるのでしょうか。
難しい問題です。文明社会には、人工物による直角が多くあり、「直角を好む」ことに有用性があります。では、人工物のない社会はどうか。
先端数理科学インスティテュートの人類学の研究者に頼んで、アフリカの狩猟民族に「不可能モーション」(後述)のビデオを見てもらい、同様の錯覚が起きることを確かめました。
ところが、その人たちも、近年は半年ぐらいは都市で暮らしていることが判明したので、結論は出ませんでした。動物はどうか実験したいところですが、動物に聞くのは難しい。ただ、動いて見える静止画など、直角以外の錯覚について、動物にも生じるとの研究結果が出始めています。
――杉原錯視には多くの「世代」があるんですね。
はい。進化を続けています。これまでの9世代を説明しましょう。
「錯視」は9世代まで進化発展
第1世代「だまし絵立体」:平面画に、エッシャーの無限階段のような「だまし絵」があります。コンピュータによる画像認識を研究していて、だまし絵の中に、実際に立体で作れるものがあると気づきました。無限階段や四角柱がよじれてつながる「ペンローズ四角形」などを作成しました。(※以下、作品写真はいずれも杉原教授提供)
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