第8世代「鏡映合成変身立体」:鏡の上に載せると、別な形をした「下半分」が映る立体です。立体そのものはスペード、ハート、クラブ、ダイヤを、半分に切った上部だけの立体なのですが、鏡に載せると、下半分が映って完全な図形に見えます。ダイヤはもともと上下対称ですが、ほかのものは、鏡映が違う形に見える変身立体の技法を使って実現しています。
第9世代は「3方向多義立体」で、これが、10月に発表された国際コンテストの優勝作品です。立体ではなく、平面の絵に、ピンと旗が立っているものです。背後に鏡を2つ立てて、3方向それぞれから、異なる立体図形に見えるように作ってあります。あえて遠近法を使わず、3方向の平行線で図形を描いているのも錯視を生むポイントです。
原理に基づく部分と未解明の部分がある
――今回優勝されたのは、どういう国際コンテストでしょうか。
正式にはBest Illusion of the Year Contestと言います。錯視は、視覚の極端な振る舞いと言え、目の仕組みを調べる研究に手段を提供してくれます。そこで、アメリカ神経相関学会が、錯覚の「新作」の発見を奨励しようとコンテストを行っています。ファイナリスト10人の選出は、専門家が新規性を評価して行い、これを通ればアカデミックな業績と認められます。
その後、1~3位の決定は、面白さや美しさなどを考慮し、一般の人の投票で行います。以前は決勝戦をフロリダの舞台で行っていましたが、最近はWeb上だけになりました。舞台でのプレゼンは、「欽ちゃんの仮想大賞」のようなノリで、過去、私のジョークが大うけした経験もあり、なくなったのは少し残念です。
――錯視研究を事故防止や渋滞対策に応用する例を教えてください。
日常で多い錯覚に、坂道の傾きの誤認があります。原理的には「不可能モーション」と同じです。運転中、下り坂を認識しないと事故の原因になり、上り坂を認識できなければ渋滞の原因になります。この錯覚の発生地点はわかっていますが、対策にはまだ課題が残ります。
「速度低下に注意」などの看板は設置済みですが、文字情報は脳に届くのが遅いのです。より視覚に訴えることを狙って、トンネル内で、壁に水平な線を描いて上り下りを認識させるシミュレーション実験をしましたが、個人差が大きく逆効果になる人もいて、まだ解決していません。道路の構造を変えてしまえればいいのですが。
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