――ご著作には、さいころが歪んでいた場合の確率計算など、クリエーティブと言いますか、類例のないオリジナルな研究が多いと感じました。
そうかもしれません。本を書くときは、「自分にしか書けない本を書く」ように心がけています。昭和23年(1948年)の生まれで、日本は加工貿易で立国すると教えられた世代です。子供の頃からモノを作ろうという思いがあって、工学部に進むつもりでした。工作は得意で、中学の発明コンテストで自動記録雨量計を作って岐阜県から表彰されたりしました。数学パズルも好きで、ある問題を自力で解いて、教わってはいないのですが「これは二進法の原理だ」と先生に言われたのを覚えています。
――最近のAIの進歩をどうご覧になるか、教えてください。
深層学習など、学習機能による発展が主流になっています。すばらしいことですが、人間と同じように学習させれば、人間と同じ錯覚を起こすようにもなるでしょう。答えは出せても説明できない、ブラックボックス化の問題もある。機械の持つよさは生かし、人間のまねをしてほしくないところは、しないようになってほしいですね。
視覚心理学に数学を持ち込んだことの斬新さ
――数理が「役に立つ」ことを多くお示しいただいていますが、錯覚はそれ以前に好奇心を刺激します。
そうですね。私が研究を始めたのも、自分が面白いという好奇心からだったと思います。ただ、やってみて実感するのは、錯覚は皆に楽しんでもらえることです。ボロノイ図や計算幾何もたいへん面白いのですが、一般の人に理解してもらうのが難しい。錯覚なら誰でも不思議さに驚いてもらえる。そうすると、もっと驚いてもらおうという気になりますね。
――今後の研究の方向性を教えてください。
心理学や脳科学の分野の研究者から、共同研究のオファーがあります。脳のどこの部位が反応しているかの研究や、なぜ「直角が大好き」なのかのさらなる研究などがあります。錯覚は伝統的には視覚心理学の分野で、そこに数学という新しい手法を持ち込んだところが、興味を呼んでいるのだと思います。
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