中国出身の私がNHK朝ドラ《あんぱん》を見た結果 戦争描写に感じる「抗日ドラマ」「中国の歴史記憶」との相違点

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NHK「あんぱん」
中国出身の著者は、NHKの朝ドラ『あんぱん』を興味深く見ている。中国の高齢者の娯楽である抗日ドラマと比較しながら、両国の関係を考えていく(画像:NHK「あんぱん」公式Xより)

NHK朝ドラ『あんぱん』を興味深く見ている。とりわけ戦争にまつわる描写には、感慨深いものを覚えずにはいられない。

主人公・柳井嵩(北村匠海)が私の故郷、中国・福建省福州市に出征し、宣撫班に配属されるくだりでは、「俺たちは歓迎されていない。これは本当に、東洋平和のための正義の戦争なのだろうか」と、自らの立場に疑問を抱く。その葛藤が、ドラマのなかで丹念に描かれているのだ。

なかでも印象的だったのは、柳井たちが中国人に紙芝居を見せるシーンだ。紙芝居はもちろん、戦争そのものを止める力はないにせよ、敵味方を超えて「心を動かす」だけの力を持っていた。

朝ドラでこうした描き方がなされるのは珍しく、私は戦争を見つめる視点としても斬新に感じた。

紙芝居
主人公・柳井嵩が中国人に「紙芝居」を見せるシーンが、とても斬新に感じられた(画像:NHK「あんぱん」公式Xより)

80年前、「柳井嵩」が中国の実家に来ていた?

「1945年の真夏のある日。場所は中国福建省福州市の林浦という村。幼い少女が家で兄と一緒に遊んでいると、突然、外で『日本人が来た!』と叫ぶ声がした。二人は慌てて観音菩薩の石像が置いてある大きなテーブルのうしろに身を隠した。そこへ重い足取りが入ってくる。少女がテーブルの陰からそっと首を伸ばすと、ブーツを履いた二人の日本軍兵士の姿があった。彼らは部屋を見まわしたあと、観音菩薩の前で両手を合わせ深々と頭を下げた。少女はその敬虔な様子を目にして、初めて人間の心の複雑さを思い知らされた。そして、後年、母となってからは娘の筆者に何度もこの話を語って聞かせたものだ」

私はかつて『中央公論』2003年9月号に「鬼がいなくなる日」と題した記事を寄稿して、こんなふうに書きだした。

いまにして思う。80年前、母の家に来たという日本兵は、もしかすると『あんぱん』の「嵩」や「健ちゃん」だったのかもしれない……。そんな想像が、歴史と現実を不思議に結びつけるのだ。母が語っていた、優しかった日本兵の思い出は、今も私の心に刻み込まれている。

一方で、学校で教わった戦争の教育はまるで違っていた。中学の地理の先生は、地図上の日本を指さして「これが小日本だ」と繰り返し蔑んだ。

「抗日ドラマ(日中戦争ドラマ)」に少年英雄がよく登場し、私たちは「英雄を見習うように」と教えられた。でも、何をどうすればいいのか分からず、私はただ茫然としていた。

【画像4枚】戦時下の様子を描いたNHK朝ドラ『あんぱん』。筆者が「斬新」だと感じたシーンはこちら
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