中国出身の私がNHK朝ドラ《あんぱん》を見た結果 戦争描写に感じる「抗日ドラマ」「中国の歴史記憶」との相違点

NHK朝ドラ『あんぱん』を興味深く見ている。とりわけ戦争にまつわる描写には、感慨深いものを覚えずにはいられない。
主人公・柳井嵩(北村匠海)が私の故郷、中国・福建省福州市に出征し、宣撫班に配属されるくだりでは、「俺たちは歓迎されていない。これは本当に、東洋平和のための正義の戦争なのだろうか」と、自らの立場に疑問を抱く。その葛藤が、ドラマのなかで丹念に描かれているのだ。
なかでも印象的だったのは、柳井たちが中国人に紙芝居を見せるシーンだ。紙芝居はもちろん、戦争そのものを止める力はないにせよ、敵味方を超えて「心を動かす」だけの力を持っていた。
朝ドラでこうした描き方がなされるのは珍しく、私は戦争を見つめる視点としても斬新に感じた。

80年前、「柳井嵩」が中国の実家に来ていた?
私はかつて『中央公論』2003年9月号に「鬼がいなくなる日」と題した記事を寄稿して、こんなふうに書きだした。
いまにして思う。80年前、母の家に来たという日本兵は、もしかすると『あんぱん』の「嵩」や「健ちゃん」だったのかもしれない……。そんな想像が、歴史と現実を不思議に結びつけるのだ。母が語っていた、優しかった日本兵の思い出は、今も私の心に刻み込まれている。
一方で、学校で教わった戦争の教育はまるで違っていた。中学の地理の先生は、地図上の日本を指さして「これが小日本だ」と繰り返し蔑んだ。
「抗日ドラマ(日中戦争ドラマ)」に少年英雄がよく登場し、私たちは「英雄を見習うように」と教えられた。でも、何をどうすればいいのか分からず、私はただ茫然としていた。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら