興味深い話がある。ロバート・チャルディーニの古典的名著『Influence』(邦題『影響力の武器』、誠信書房)に紹介されているハーバード大学のエレン・ランガー教授の実験からの引用である。
学生の協力者に、コピー機の行列に割り込む実験をしてもらう。
まず第1のグループは、正当な理由を言って割り込もうとする。「すみません、5枚なんですけど、とても急いでいるので、先に取らせてください」この場合は94%の率で入れてもらえた。
第2グループは、理由を述べず「すみません、5枚なんですけど、先に取らせてください」とだけ言う。これだと、成功率は大幅に下がって60%になる。ここまでは、特に不思議はない。
面白いのは、第3のグループである。今度は「理由らしきもの」を言う。「すみません、5枚なんですけど、コピーをしないといけないので、先にとらせてください」。コピーを取りに来ているのだから、しないといけないのは当たり前で、理由になっていない。このせりふは内容的には第2グループと同じといえる。ところが、この第3のグループの成功率は93%で、正当な理由を言う第1グループと遜色がなかった。
「理由らしきもの」に機械的に反応してしまう
チャルディーニは、これをヒューリスティック(heuristic、心理バイアスによる短絡思考)の見本として挙げた。「○○なので」と理由を言う形をとることによって、実際には理由になっていなくても、相手は機械的に反応してOKしてしまうというわけである。
チャルディーニはこれを、テープレコーダーのスイッチを入れると、「カチャ、ウィーン」といって動き出す擬音語(原語は斜体で「Click, whirr!」)と呼んでいる。理由になっていようといまいと、「○○なので」(英語はbecause)という語を聞いた途端に、「理由を言われたから承諾」、という機械的反応が動き出す。
続いて、ほかのステロタイプ、例えば値段が高ければよいものだと思ってしまう現象など、さらに広範に議論が展開していく。
さて、ここでチャルディーニのテキストから多少離れて、第3のグループの「理由らしきもの」がなぜ有効だったのか、さらに考えてみよう。
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