欧州「幸福先進国」の教育はこんなにも凄い 子どもがけんかを仲裁、校長も選挙で選ぶ

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ピースフルスクールは「対立の発生を悪いものではなく当たり前のことととらえ、解決力を身に付けること」「社会的な課題に対して前向きに取り組む力を身に付けること」「異なる意見を持つ人と建設的に議論し、意思決定する“民主主義的スキル”を身に付けること」などを目的につくられた教育プログラム。

憲法で教育方法の自由が保障されているオランダでは、各学校がさまざまな支援団体のコンサルティングを受けながら、独自の教育プログラムを採用できる仕組みが整っている。ピースフルスクールはそんな教育プログラムのひとつである。先述のユトレヒト市では、ほぼすべての小学校がこのプログラムを採用している。

対話の流れを可視化し、皆で共有していることを実感させるワーク

プログラムの内容はそれぞれ個性的だ。たとえば、毛糸玉を持って発言し、糸の一方を握ったまま、次の発言者に毛糸玉を投げ渡す。これを繰り返していくと、机上に毛糸で結ばれたネットワークができる。対話の流れを可視化し、対話を皆で共有していることを実感させるワーク。このような授業が年間40回程度行われている。

子ども自身にけんかを仲裁させる取り組みも

このようにさまざまな授業プログラムや仕組みで構成されるピースフルスクールだが、私たちが最も象徴的だと感じたのは、メディエーター(仲介者)という存在だ。メディエーターには小学校5、6年になると立候補でき、選ばれた子どもたちは、中立な立場で話を聞くこと、相互理解を促すことなど、コミュニケーションのための5回のトレーニングを受ける。その後、校内で起きるけんかなどを仲裁する役割を担う。

けんかが発生すると、当事者とメディエーターは学校内の一画に設けられたメディエーションルームに集まる。当事者それぞれに「あなたに何があったのか」「そのとき、どう感じたのか」を丁寧に聞き、互いに相手の立場で起きていたことと感じていたことに耳を傾けさせることで、対立の解決を支援していくのだ。

メディエーターは校内で起きるけんかなどを仲裁する役割を担う

子どもたち全員は、そのとき、どんなに腹が立っていてもメディエーションルームは行くべき大切な場所であるという共有認識を持っている。この学校の子どもたちの中にある「対立が起きても自分たち自身で解決できるという感覚」は、学校への安心感や自己肯定感につながっていて、それが、教科の学習や成績にも好影響をもたらしているという。

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