最後に紹介したいのが「森の幼稚園」という形態の幼稚園。その名のとおり、建物の中ではなく、一日中、森の中で子どもたちが学び育つ幼稚園だ。
第2次世界大戦終結から間もない1952年にデンマークで誕生。1人の母親が森の中で子どもを保育したのが始まりとされ、その後、デンマーク各地や北欧諸国やドイツに広まっていった。私たちが訪れた、デンマーク・ロラン島に所在するMyretuenという園では、一画に古い農家だった家屋があり、周囲には手作りの遊具、楽器などが点在、子どもたちが好きな場所で思いきり遊びまわっていた。
ここには、自然の中でのびのびと過ごすといった側面もあるが、運営の背景には、もっと大きな理念がある。
”民主主義の基礎”とは、感じ表現すること
森の幼稚園は、デンマーク人が持つ「子どもはなるべく自然に触れさせながら育てる」「日々の天候に合わせて生活を楽しむ」といった伝統的な価値観を基にしているものだが、その環境下で身に付けさせるべき最も重要なことは“民主主義の基礎”なのだ、とニールセン園長は言う。
まず園児たちは、その日に何をして遊びたいかを自分で選択する。それぞれの子が、自分ができることの限界に挑戦することで、自分ができることとできないことも知る。また、集団生活の中で、自分と異なる考えや行動をとる子がいることも学ぶ。「自分を知り、多様な価値観を認め合い、共存していくことは健全な民主主義社会を構成するうえで欠かせない条件です。それらを、体験を通して感じ、考えていける環境を提供することが大切なんです」と園長は説明してくれた。
ここを訪れ、小学生から対立を扱う対話をしたり、高校生で侃々諤々(かんかんがくがく)の議論をしながら自分たちで学校を運営していくような力は、実は、幼児の頃の、「自分自身が何を感じているのかを自分で感じることと、それを表現できること」の体験によって育まれるのだと悟った。まず自分を感じ知ること。この当たり前のことが、共生と多元社会を成立させている原点であるといっても過言ではないだろう。