この制度は地域社会にも拡大し、各所で「ピースフルコミュニティ」を誕生させつつある。あるとき、メディエーター経験者の子どもが町中で大人同士のいさかいを仲裁したことが話題となり、ユトレヒト市全体に「子どもたちに倣って地域も変わらなければ」という機運が生まれていった。そしていくつかの自治体が学校と地域を連携させるプログラムの導入を決定。行政、警察、公共施設などに所属する一定の人がピースフルプログラムの研修を受けており、ピースフルスクールの理念を柱とした一貫性のある地域・環境づくりが進められている。学校が中心となって地域に民主的な市民社会が構築されつつあるという、オランダ国内においても非常に先進的なケースとして注目されている。
生徒も先生も1人1票という「民主主義」
次に、紹介するのが、デンマークの首都コペンハーゲンにある自由高校(Det frie Gymnasium)だ。この学校は1970年に開校。中学部と高学部を合わせ、約850人の生徒が在籍している。保護者の多くを占めるコペンハーゲンの知識層からの支持は厚く、成績水準は国内10位内に位置するとされる。
自由高校の最大の特徴は、生徒と先生が選挙権を1票ずつ持ち、すべての学校運営と課題に対して投票制を導入していることだ。落書き(グラフィティアート)だらけの校内に一瞬ぎょっとするが、これも生徒たちが自ら提案し、年度初めに投票にかけ、今年度の方針として全員で決めたこと。来年度になればまた真っ白に塗り直されるのだという。
また、私たちが視察に訪れた日に会議で話し合われていたのは次期校長を決める選挙について。2人に決めた候補者に演説をしてもらい、全員が投票するまでの行程が議論されていた。「私たちの学校なのだから、私たち自身で決めることができる」という価値の共有を徹底しているのだ。
教員の1人、ダール先生は「教員と生徒の関係性を表すキーワードは“same level(同等)”です」と話す。食堂としても利用される集会場は“Heart of School(学校の中心)”と呼ばれ、教員と生徒が頻繁に集まり、時間を共有し関係を深める。「本校では、教員は生徒に対して権威を持ちません。1票の重さは同じなのですから」と続ける。まさに生徒自らが学校運営を担う、究極の民主主義学校といえるだろう。