私もかつて、中学生や高校生に、具体的な職業を夢に持たせるのがいいだろうと思い、そのためのプログラムを作り、あれこれ実施してきた経緯があります。
しかし、大人がよかれと思って、子どもが夢を持っているかどうかを問うていくと、「夢を持っている子=よい子、夢を持っていない子=残念な子」というレッテルを無意識だけど結果的にはるようなことにもなりがちでした。教育の現場では、ややもすると、夢を持つ子どもの割合を増やすことを目標にしてしまう可能性すらあります。
職業より前に、考えるべきこと
もちろん、具体的な職業を夢に持っていない子が悪いはずはありません。当時、私が作ったプログラムのよしあしも当然あったかとは思いますが、そうした指導によって、すべての子どもたちが夢を本気で持ち、追いかけるようになるわけではありません。むしろ、子どもたちにはなかなか響かないようにも感じました。
そうした中で感じたのは、大人が子どもの未来に対して焦点を当てるべき部分は、本当に「具体的な夢、職業的な目標の有無」なのかということです。「何になりたいのか?」ということばかりに着目しがちですが、その前に、もっと必要なことがあるのではないかと。
私はこれまで20年間で数万人の小中高生を対象に講演会を行ってきましたが、そこで常々感じてきたことがあります。それは、子どもたちに将来なりたい職業がないということではありません。実は、別の深刻な問題を感じてきたのです。それは、子どもたちに「希望」がないということでした。 つまり、現在の自分に対して自信がないために、将来への期待が持てない状態にある、ということでした。
特に現在、勉強ができないことで自分の将来に期待が持てないケースが最も多かったのです。多くの子どもたちは自分の長所に気づいておらず、単純に勉強ができるか否かなどごく限られた尺度で自分の価値を判断していまい、これ以上は無理という“天井”を自分で設定しているのでした。これでは、将来に期待を持つということは非常に難しくなります。
そもそも、すでに好きな職業、目指したい職業がある子どもは別として、そうでない子に対して、単純に将来の夢として、職業の話をすると、「何かしら、なりたい仕事を決めなければならない」という義務感を伴ったニュアンスにもなりがちです。
しかし、職業だけに限定せず、もっと広く個々人の「希望(子どもたちが自信を持ち、将来に期待が持てる状態のこと)」をどう育てるかという話になれば、状況が違ってきます。「もしかしたら自分にも色々と可能性があるかもしれない」という思いが出てきます。ですから、直接的に将来の夢として職業を考えることよりも、まずは自分に希望を持てる状態にすることが先決なのではないかと、強く感じています。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら