阪急阪神百貨店も決して楽観できる状況ではない。エイチ・ツー・オー リテイリングの百貨店事業のセグメント利益を見ると、コロナ禍の影響もあって2021年3月期は19億円の赤字、2022年3月期は9億円の黒字になったが、利益水準は低い。
一方で、少し明るい兆しもある。コロナ禍のマイナス影響が薄らぎ、売り上げが2022年4~9月期の百貨店事業のセグメント利益は16億円の黒字を計上した。
秋口に「阪急うめだ本店」を訪ねたのだが、「英国フェア」が開催されていた。9階から12階まで4層にわたる吹き抜けを備え、階段状のベンチが設えてある「祝祭広場」を取り巻くように「フェア」が開催されたのだが、その賑わいぶりに驚いた。他フロアも東京の百貨店より賑わっているし、お客が楽しんでいる様子が伝わってくる。全体に「楽しげ」な空気が漂っているのだ。
阪急百貨店はこれからどこに向かおうとしているのか。阪急阪神百貨店社長の山口俊比古さんに話を聞いた。
小林一三が掲げた理念
「“らしさ”を語るときに、創業者である小林一三の理念に触れないわけにはいきません」と山口さん。小林一三氏が理念として掲げていたのは、「大衆第一主義」「ステップバイステップ」「共存共栄」だったという。
まず「大衆第一主義」について、「政府の要職を務め、欧米を視察して豊かな生活文化に触れた小林一三は、多くの人に幸福感を提供したいと考えていたのです」(山口さん)。阪急電鉄沿線の住宅をはじめ、「宝塚歌劇団」「宝塚新温泉」など、文化やレジャーにまつわる施設の開発を進め、暮らしを取り巻く質を上げて人々の心を豊かにすることに腐心した。その精神性を大事にしているという。
次の「ステップバイステップ」は、「私が社長になったとき、掲げた言葉が『着眼大局、着手小局』でした。文字どおり、大きな着眼点を抱いて地道に実行していくこと。自分自身の座右の銘を、戒める意図も込めて掲げたのです」。
そして3つめが「共存共栄」。社内外の多様なつながりを大切にし、ともに繁栄していくことを目指している。いわば「小林一三イズム」ともいえるこの3つの思想が“らしさ”を支えているのだ。
現在、阪急阪神百貨店が掲げているビジョンは、「お客様の暮らしを楽しく 心を豊かに 未来を元気にする楽しさNo. 1百貨店」。未来に向けて元気になる、嬉しくなる。そういうマインドを大切にしている。
「平たく言えば『夢』と『元気』と『共存共栄』と私はとらえています」(山口さん)
ベタではあるが、気持ちが伝わってくる。何よりそれが、文言を掲げて終わりでなく実践されている。だから売り場に「楽しげな空気」が漂っているのだと腑に落ちた。
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