
アメリカの暗号資産(仮想通貨)に対する規制が歴史的な転換点を迎えている。
筆者は前回、ビットコインの戦略備蓄構想は、トランプ大統領と最側近のデービッド・サックス氏がすべてを握るを書いた(週刊東洋経済7月5日号『今こそ知りたい金 暗号資産』)。その後2025年7月、長らく続いた規制の不確実性に終止符を打ち、デジタル資産時代におけるアメリカのリーダーシップを再確立しようとする動きが議会を中心に加速しているからだ。その象徴が7月14日から20日にかけて下院を軸に展開された、”クリプト(暗号資産)ウィーク”である。
暗号資産に関する3重要法案が相次いで可決されたこの期間、ビットコインは史上最高値の1BTC=12万ドルを突破。市場が歴史的変化を歓迎していることが如実に示された。
混沌と対立の渦中を抜け、重要3法案が成立へ
これまでアメリカの暗号資産規制は、イノベーションの速度に法整備が追いつかない混沌の中にあった。明確なルールの不在は規制当局間の熾烈な縄張り争いを引き起こした。その中心にいたのが証券取引委員会(SEC)と商品先物取引委員会(CFTC)である。暗号資産は「証券」か、それとも「コモディティ(商品)」か。この根源的な問いを巡る両者の対立は、事業者に深刻な法的リスクと不確実性をもたらしていたのだ。
とくにゲーリー・ゲンスラー元委員長が率いていたSECは、「執行による規制」という強硬な姿勢を貫き、業界との溝を深めた。この一方的な手法に対して、司法が「待った」をかけたのが、2023年のリップル社に対する地方裁判所の判決である。これはSECの手法の限界を露呈させると同時に、行政の暴走を止め、明確なルールを定める立法府の役割が不可欠であることを示した決定的な出来事であった。
2022年に破綻した大手取引所FTX、続く2023年に破綻したシリコンバレー銀行は、規制なきイノベーションの危うさを社会に痛感させ、信頼回復のための包括的な法整備を求める声がかつてないほど高まっていた。有望なフィンテック企業が国外へ流出するイノベーションの空洞化も、もはや看過できない国家的課題となっていたのである。
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