
ここ数年の金(ゴールド)の価格上昇は、過去に例を見ないものといっていい。とくに2024年からほぼ一本調子の値上がりは非常に急激だ。24年年初は1トロイオンス2050ドル。25年4月には3500ドル台をつけた。
米国がトランプ政権になって、関税を武器に「MAGA」(米国を再び偉大に)活動を開始して以降、世界の自由貿易を根底から覆す動きへの対策として、安全資産の金から大きく買われたのは確か。しかし、ここ数年の金価格の最大の要因として筆者が考えるのは、中央銀行による金買いだ。
22年から24年にかけて、中銀というセクターは、3年連続で1000トンを超える大量の金を購入した。世界の金鉱山の年間生産量が約3600トンであることを考えると、その30%近い部分が3年連続で中銀によって吸収されてしまったというわけである。
中銀は財産として金を買う。それを保有することが目的であり、財産として保有している限り、簡単には市場に戻ってこないのだ。3年連続で30%の供給が減少すれば、価格が上がって当然だろう。そして25年に入っても中銀の金買いは続いている。
では中銀にとって金とはどういうものか。現在に至る中銀と金との近年の歴史を解説する。そして今、それがどんな影響を市場に与えているか、見てみたい。
大量に刷られた米ドル
通常、中銀は、「外貨準備」と呼ばれる財産を保有する。外貨を持って貿易や投資、国の信用を支えるのが目的だ。中でも金は非常に重要な資産。欧米で外貨準備における金の割合は極端に高い。下表は中銀の金保有量上位10カ国と、各国が外貨準備のうちどれくらいの割合を金で保有しているか、示したものである(25年3月末)。
米国の外貨準備で金が78%を占めるのは、基軸通貨を自由に刷れるという、これ以上ないアドバンテージを持っている以上、米ドル以外の通貨を持つ意味がないから。つまり米国にとって価値ある資産は金しかない。
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