帰国した上田は、慶応高校野球部に「なめているような」練習方法を加えた。公式戦の試合前、シートノックの最後にボテボテのゴロを打ち、内野手が素手で捕球し、1塁にランニングスローしてベンチに戻るのだ。この光景を目撃した観客はどよめき、横浜高校の名将・渡辺元智監督が「どうやるの?」と聞きにきたほど斬新だった。
イノベーションのヒント
15年前の日本に、チェンジアップを投げる投手はほとんどいなかった。上田はアメリカで学んだ投げ方を慶応生に教えると、見事にマスターする者がいた。その投手がチェンジアップを武器に好投すると、相手高校の監督が投げ方を聞きにきた。上田が喜んで教えると、神奈川ではチェンジアップを投げる投手が急増した。
今や、甲子園でチェンジアップを投げる高校生投手は珍しくない。かつて誰も投げなかったボールを、現在は当たり前のように目にする。ひとりの好奇心により、時代は変わっていくのだ。
上田はよく、慶応生に話すことがある。
「レールから外れろ。たとえレールから外れても、まだ地面があるから死にはしないよ」
エンジョイ・ベースボール――。解釈次第で、その意味はグッと深まっていく。
「自分で考えていろいろやらないと、レールから外れない。外れるのが面白いんだけどね」
レールから外れてみると、イノベーションのヒントが見えてくる。
(=敬称略、写真:上田誠氏提供)
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