慶応高校野球部に学ぶ、イノベーター育成法 エンジョイ・ベースボールの教え

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帰国した上田は、慶応高校野球部に「なめているような」練習方法を加えた。公式戦の試合前、シートノックの最後にボテボテのゴロを打ち、内野手が素手で捕球し、1塁にランニングスローしてベンチに戻るのだ。この光景を目撃した観客はどよめき、横浜高校の名将・渡辺元智監督が「どうやるの?」と聞きにきたほど斬新だった。

イノベーションのヒント

15年前の日本に、チェンジアップを投げる投手はほとんどいなかった。上田はアメリカで学んだ投げ方を慶応生に教えると、見事にマスターする者がいた。その投手がチェンジアップを武器に好投すると、相手高校の監督が投げ方を聞きにきた。上田が喜んで教えると、神奈川ではチェンジアップを投げる投手が急増した。

今や、甲子園でチェンジアップを投げる高校生投手は珍しくない。かつて誰も投げなかったボールを、現在は当たり前のように目にする。ひとりの好奇心により、時代は変わっていくのだ。

上田はよく、慶応生に話すことがある。

「レールから外れろ。たとえレールから外れても、まだ地面があるから死にはしないよ」

エンジョイ・ベースボール――。解釈次第で、その意味はグッと深まっていく。

「自分で考えていろいろやらないと、レールから外れない。外れるのが面白いんだけどね」

レールから外れてみると、イノベーションのヒントが見えてくる。

(=敬称略、写真:上田誠氏提供)

中島 大輔 スポーツライター

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なかじま だいすけ / Daisuke Nakajima

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。2005年夏、セルティックに移籍した中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に野球界の根深い構造問題を描いた「野球消滅」。「中南米野球はなぜ強いのか」(亜紀書房)で第28回ミズノスポーツライター賞の優秀賞。NewsPicksのスポーツ記事を担当。文春野球で西武の監督代行を務める。

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