厳しさと自由のさじ加減
だが、放任しすぎても高校生は自己管理できない。監督=マネジャーには、絶妙な手綱さばきが求められる。
上田はこの冬、2週間以上の休暇を設けた。本を読み、じっくり思考する時間を与えることで、「工夫して練習したり、余裕によりアイデアが生まれる」と考えたからだ。
同時に、冬休み中に自ら練習させる仕組みも施している。休暇明けには湘南海岸に集まり、短距離走を3時間実施。事前に「この練習で倒れたら、1月の全体練習に参加させない」と通告しておくことで、選手は冬休み中に自らトレーニングするのだ。
「厳しい人がいないと、たとえば『自分で100メートルを50本走れ』と言ったところで、絶対に走らない。それでは負けてしまう。ある程度、強制的にやらせて、タイミングを見て、スッと引く。そうすると、練習していない選手は不安になる。そう考えれば自ら行うように変わり、自分に合った練習方法を見つけていく。でも自由にやらせていると、ちょっとずつサボるようになる。それでカチンと来て、強制的に走らせる(笑)。それで引いてと、その繰り返し。ラインの見極めが、指導者としてはいちばん面白い」
センスを伸ばす練習
上田には、嫌いな言葉がある。「慶応だから、そういう練習方法をできるのでは?」というセリフだ。慶応生は頭がよく、付属高校で進学の心配がないから、伸び伸びと練習できる。周囲はそう見るが、上田には誰よりも創意工夫している自負がある。
そのひとつが、センスを伸ばす練習だ。
慶応ではウォーミングアップに、「華陀体操」というメニューがある。中国で古くから行われているもので、関節を強化する効果があるという。上田は慶応にやって来る以前、厚木東高校の監督を務めている頃、運動能力を高めるトレーニングを探していたときに知人のトレーナーから教えてもらった。
「センスが何かと言えば、関節の可動範囲が広く、股関節などいろいろな箇所を自由に動かせることがひとつ。逆に言うと、体の真ん中の部分を故障することはあまりない。結局、ヒジや肩、膝の負傷には、関節部を痛めるケースが多い。関節部はいわゆるポンプのような役目になっていて、関節をうまく曲げたり、伸ばしたりすると、ポンプが縮まり、血管が押され、血流がよくなり、疲労も取れ、若返り、新陳代謝もよくなる。たとえば病人がずっとベッドの上に寝ていると、体が動かなくなる。それと同じことで、関節をいかに動かしてやるか、圧力をかけながら動かすかというトレーニングが華陀体操の目的です」
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