全国レベルの実力を誇る推薦入学者たちは、プレーで牽引したばかりではない。野球選手、さらには高校生としての姿勢で、一般部員たちに好影響を与えた。
「全然、勝てなかった時期は、学生たちが甲子園に行くことをあきらめていた。しかも勉強を一生懸命やるわけでもない。そこに全国優勝経験のある投手が入って来て、勉強を真剣にやりながら、居残り練習もする。そうした姿勢が一般入試の子たちへの刺激となり、チームがいい方向に進んだ」
知的好奇心をくすぐる
慶応の生徒には、研究者気質がある。上田はその特色を伸ばすべく、座学を重視している。技術や戦術、運動力学や栄養学を教え、野球に知力を活用させているのだ。
「うちの選手たちは理論武装が好き。頭でっかちな部分があり、根性系の練習は好まない。でも野球を学問的に教えると、自分たちで実践し始める」
インターネットで動画を探し、自分のフォームや対戦相手を研究する。プロテインを個人輸入し、体重をアップさせようとする者もいる。腰痛を抱える選手は、ヒアルロン酸やグルタミン酸のサプリメントを飲んで痛みを緩和させようとしている。幼少の頃に受験戦争を勝ち抜いた彼らは、学問のエキスパートだ。野球をアカデミックにとらえることで、上達のスピードが加速していく。上田はそんな道筋を示し、選手の背中を少し押すことで、長所を伸ばそうとしている。
だから、疲労困憊になるような練習はやらせない。
「死ぬほど練習させて、有無を言わせないような毎日だと、彼らはきゅうきゅうになってしまう。ヘトヘトで家に帰り、命じられたから素振りするのでは、何にもならない。授業中に寝ているのもダメ。練習は腹八分目くらいにして、自分でやる領域を残してあげるのが高校野球の監督の役割だと思う。少し余裕を与えてあげるくらいが、ちょうどいい」
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