慶応高校野球部に学ぶ、イノベーター育成法 エンジョイ・ベースボールの教え

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上下関係をつくらない

上田は慶応高校野球部の監督に就任すると、いわゆる高校野球のイメージとは対極の組織作りを始めた。一般的な野球部では下級生だけが練習の準備、グラウンド整備をさせられるが、上田はその仕組みを「無駄だ」と感じていた。

「上下関係をつくる温床が野球界、スポーツ界には存在している。僕もいわゆる軍隊式の上下関係を高校、大学時代に野球部で経験して、ものすごく嫌だった」

上田が就任する以前の慶応高校野球部では、下級生だけが準備、片付けをさせられていた。だが上級生も含めた全員で行えば、その時間を短縮することができる。効率化で生まれた時間を自主練習、勉強にあてれば、選手、学生として伸びていく。一緒に作業を行うことで、下級生と上級生の間にコミュニケーションが生まれる。それが上田式の“カイゼン”だった。

しかし、新しいことを始めようとすると、必ず反発する既得権益者がいる。さらに言えば、上級生は1年生の頃に片付け、準備を押し付けられていたにもかかわらず、3年生になっても面倒な作業から解放されなければ、理不尽と感じても仕方がない。そうネガティブに思考させないため、上田は上級生たちをこう説き伏せた。「君たちの代から新しいタイプの野球部をつくろう」。心をくすぐる言い方は、抵抗者に響いた。

推薦入試で野球も勉強も一生懸命な異分子を獲得

2003年、慶応高校には“野球エリート”も入学してくるようになった。以前は一般入試と帰国生入試しかなかったものの、この年から推薦入試が導入されたのだ。だが、推薦で慶応野球部にやって来る者たちは、単なる“野球エリート”ではない。

「中学時代に野球でいい成績を収め、かつ勉強もコツコツやってきた連中が推薦で入学できる。さまざまな本を読み、野球も勉強も一生懸命やるという人種が集まってくるから、見ていて面白い」

推薦入試で入部したひとりが、慶応大学進学後、2013年ドラフト6位で日本ハムに指名された白村明弘だ。彼のように野球でプロになった者がいれば、大学に残って科学の道を究めようとする者もいる。勉強一筋の一般入試生と比べ、推薦入学者たちは異なる色を持っていた。

異分子の加入は、すぐに好結果に結び付いた。2005年春、45年ぶりの甲子園出場を果たしたのだ。低迷期を脱すると、08年には春夏、翌年は春の全国大会に出場する。神奈川の名門は、完全復活を遂げた。

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