ボクは昔、マイクロソフトという会社にいたのだが、その米レッドモンドの本社では、もっと電力を使っていた記憶がある。一人当たり2台以上のブラウン管のディスプレイと大量のサーバーと、それを冷やすのに使っていた電力の方が多いのだ。
とはいえ、大電力であることには変わらない。この実験施設が、毎年、夏の間に定期メンテナンスを行うのは、人の都合ではなく電力の都合だ。
真ん中の穴を通り抜けてみた
見上げるBelle IIの真ん中に、ぽっかり高さ2メートルほどの穴が開いている。数ある検出器のうち、(1)~(4)が未設置だからだ。
「中を通りますか? 縁起がいいので」
本当なのか? 東大寺大仏殿の柱の通り抜けを思い出す。もちろん通ることにする。高さ4メートル近くまでを工事現場にあるような仮設階段を上がる。ボク、これまで何度か工事現場にお邪魔したが、ここほどアクロバティックな階段はなかった。ようやく到達して「くぐってみた。そうか、この中を電子や陽電子やB中間子やπ中間子やK中間子が通るわけか。
穴の向こうでは、クレーンがまた新しい板(検出器の一部)を釣り上げようとしている。
「これは、世界最大級の手作り装置じゃないですか」とナカムラさん。たしかに、Belle IIもSuperKEKBも、巨大な手作りかつ一点モノだ。その手作りの結果のひとつが、ノーベル賞なのだから面白い。このBelle IIも、稼働は今のところSuperKEKB同様、2015年に予定されている。そりゃそうだ、SuperKEKBがなければBelle IIには測るものがないし、Belle IIがなければ、SuperKEKBが稼働する理由もない。
穴から出て、地上へ戻る。これで見学は終了だ。車に乗って振り返ると、ナカムラさんがこちらにレンズを向けていた。
広大な敷地の出口へ向かう。ススキが秋風にたなびいている。ときおり、ハクビシンなども目撃されるという。何かこう、科学実験以外の目的にもこのスペースを使ったらいいのではないか。
リニアコライダーを応援
訪れるまで、実態がよくわからないと思っていた加速器。それは、見たことでだいぶ理解できたような気がしている。そして、やっぱり新しい加速器は必要だなと思った。
実はボクは、現在建設に向けて計画が進められている、全長約30キロの直線状の加速器・リニアコライダーの応援団的なこともしている。これが完成し、実験すると、たとえば超統一理論という、まだ証明されていない理論を、証明できるかもしれないからだ。対称性の乱れが、KEKBがなければ証明できなかったようなものだ。そうやって地道にいろいろなことを解き明かしていくことが、物質や生命の根幹に関わる謎を解くことにつながる。
リニアコライダー応援メッセージ的なものに、ボクはこう書いた。
〈物理学は次世代産業の井戸です。本来は純粋科学として生まれた古典力学が機械を、電磁気学が通信を、量子論が半導体などの産業を生み出してきました。僕らは先輩が掘った井戸から水を汲み出しているのです。超統一理論という新しい井戸は僕らの担当なのです〉
SuperKEKBとBelle IIという井戸については、たいそう理解が深まった。しかし、その井戸を持てる加速器処に対してより深まったのは、汲めど尽くせぬ好奇心である。
加速器も検出器も普請改め、すなわち新バージョンなのに、片割れはSuperで、その相方はIIだ。統一感というものはない。入り口には盗人(ぬすっと)は徘徊しておるし(誤解)、Kou Enerugiiだし、直進すると「放射光」だし、紙入から診察券だし、鯵フライ定食は500円だし、色紙は「広報室へ」だし、ハクビシンだし。こんなに面白くていいのだろうか。
次回この地を訪れることがあらば、これらについて膝を詰めて、とくと尋ねてみたいものだと腹を決めた。
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