B中間子は、電子と陽電子とがぶつかると発生する。発生させて、壊れ具合を実際に観測し、やっぱり崩壊の仕方が違っている、とふたりの理論の正しさを証明した。
証明するには、沢山の観測データが必要だ。そのためには、沢山のB中間子を発生させる必要がある。そのためには衝突させる電子と陽電子の塊を凝縮しなければならない。
それを専門家はルミノシティという指標を使って表現する。KEKBと比べると、SuperKEKBでは、ルミノシティは40倍になるそうだ。
ルミノシティを高めるのは、実験を効率よく行うため。実験を効率よく行ってどうしようとしているのかといえば、物質や生命の仕組みを、小さなところから解き明かそうとしているのだ。CP対称性の乱れの原因究明は、その長い探求の道のりの通過点だ。
素粒子Tシャツをゲット
売店も覗いてみた。素粒子ぬいぐるみ、素粒子Tシャツなどがある。ヒッグス粒子Tシャツをチョイスしてみた。1500円だった。
十分満足して、午後の部へ。今度はTSUKUBAの見学だ。ここの地下4階にもSuperKEKBはあるが、それに加え、発生するB中間子などの測定器『Belle II』があるので、見せてもらうことになっている。
肝心の見どころである測定器を案内してくれるナカムラさんは、自転車で颯爽とやってきた。黒眼鏡をかけ、さらにはニコンの一眼レフカメラ「D600」を斜めがけにしている。そのたたずまいから、この手の見学案内には慣れているとお見受けした。
KEKBがSuperKEKBへと生まれ変わっているのと同様に、現在、BelleもBelle IIへと進化を遂げている最中だ。なので、今なら、普段はSuperKEKBの一部に組み込まれているBelleの全貌が見られるという。
TSUKUBAを地下1階まで下りる。するとそこは回廊になっていて、真下にBelle IIが見えた。縦横高さがすべて8メートルで、重さは1400トン。小さな小さな電子と陽電子の塊をぶつけた結果がどうなるかを知るのに、こんなに大がかりな装置が必要なのだ。
1兆分の1秒で消える運命
電子と陽電子の塊がぶつかると、B中間子が生まれることはすでに述べた。
このB中間子が、短時間で崩壊して消え去るはかない運命にあることも述べた。
では「短時間」とはどれくらいかというと、1兆分の1秒ほどだという。その崩壊の間に、なくなっていくB中間子から、ほかの何種類かの粒子が飛び出してくる。その何種類かの粒子のうち、Belle II(とBelle)では、π中間子、K中間子、電子、ミュー電子、光子をキャッチできる。それぞれの粒子がどれだけ生き残り、どのあたりまで飛び、そしてどんな検出器でキャッチできるかは異なっている。故に、Belle IIは多数の検出器によってできている。
Belle IIの最も内側には、内径2センチのパイプ・衝突管が置かれることになる。この中が、電子と陽電子が衝突する現場だ。
このパイプは3種類の金属で作られる。内側から、ベリリウム、チタン、それからタンタルまたはタングステン。
Belle IIを見下ろす実験室では、この模型を使って設置のリハーサルなどを行う。せっかく作った衝突管が、SuperKEKBとつなげられなくては問題だからだ。
その衝突管の外を、現場で何が起こったかを知るための機械が取り巻く。最も内側には、(1)ピクセル型検出器(PXD)なるものが設置される。PXDは、BelleがBelle IIになることに伴って導入される、新しい検出器だ。
「これは、衝突によって発生したB中間子が、どこで崩壊したかを測定するものです」とナカムラさん。
なぜ、「どこで」を測るのか。「どこで崩壊するかがわかれば、粒子が飛んでいないところまで測定する必要がなくなります」。
確かに、8メートル×8メートル×8メートル全部でデータを採っていたら、大変なことになる。最初のところで、当たりを付けるのが肝心なのだ。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら